監修:特定社会保険労務士 馬場栄
街路樹が秋色に染まる季節になりました。皆様いかがお過ごしでしょうか。
ヒューマンテクノロジーズの松木です。
厚生労働省では、毎年11月を「過労死等防止啓発月間」と定め、過重労働や悪質な賃金不払残業などの撲滅に向けた取り組みを実施しています。
今回は「労災事故で絶対やってはいけないこと」を中心に、本サービスの中でも過重労働の防止に役立つ機能についてご紹介いたします。
ご紹介する機能は以下の通りです。
・時間外勤務の申請・承認
・未申請残業通知機能
・アラート通知登録
・各種勤怠データ出力機能
改めて労働災害とは?
労働災害(以下、労災)というと、現場や店舗、倉庫等で作業中の怪我などのイメージが強いかもしれませんが、
前述の過労死等のように、過重労働等による労災も大きな問題となっており、これは業種や職種を問わず発生しうるものです。
皆様もご存じの通り、働き方改革の目的の1つに長時間労働の是正があり、時間外労働の上限規制が導入されています。
なお、労災には業務災害と通勤災害がありますが、そのうち業務災害については、労働者が労働契約に基づいて、
使用者の支配・管理下で労働を提供する過程で、業務に起因して発生した災害(怪我や病気)を言います。
労災が起きた際は、労働基準監督署(以下、労基署)へ請求し、労災として認められると、治療の費用、就業できず賃金が得られない場合の補償、障害が残ってしまった場合の補償、遺族に対する補償等が受けられます。
加えて、労働者が労災により死亡または休業したときは、労基署に「労働者死傷病報告」をする必要があります。
※報告を怠ったり、虚偽の報告をおこなうことをいわゆる「労災隠し」といいます。
労災隠しとその要因。やってはいけないこととは?
労災が起きた後、労基署へしかるべき労災保険給付の請求(以下、労災請求)や前述の報告を行わずに済ませてしまうケースが見受けられます。
■ 報告や請求をためらう主な理由や事情
・労基署の調査が入る
・取引先に知られる、迷惑をかけるなど企業イメージ・業績低下
・該当の現場担当者や管理職が責任や評価を恐れ会社に報告しない
また、報告や請求できない事情を抱えていることも大きな要因と考えられます。
・労災保険未加入(手続き・保険料納付をおこなっていない)
・適切な安全衛生管理をおこなっていない
・36協定等未締結・未届
・賃金未払い(残業代や最低賃金割れ)
・外国人労働者の手続き不備(不法就労)
・長時間労働
・セクハラ・パワハラの疑いがある
いろいろな事情があると思いますが、意図的におこなわれている場合は特に問題です。
労災隠しが発覚すると、労働安全衛生法違反で書類送検、50万円以下の罰金の処分が下されたり、厚生労働省のホームページに企業名が公表される場合があります。
労災隠しまたは労災請求をせずにおこうと考える理由の1つには、企業イメージの低下もあると思いますが、上記のような処分を受ける事態となれば、よけいに悪化させることになりかねません。
また、労災請求しないことをきっかけに労働者等との関係が悪化し、問題が他に拡大・発展する恐れもあります。
労働者とのコミュニケーションを図らず、会社の都合で物事を考えたり、進めることは避けるべきと言えるでしょう。
残業を申請制にする
労働災害やその認定をめぐる労使トラブルの背景には杜撰な勤怠管理が背景となっていることがあります。
特に、従業員が上長の監督なしで残業している場合は注意が必要です。
本製品では、従業員による残業時間の申請を、管理者が承認する管理方法を採用できます。
☞ 申請した時刻までの残業を認めることはできますか?
メール通知を設定し、承認されていない残業時間を把握することもできます。
☞ 申請や承認がされていない残業時間を把握することはできますか?
時間外労働の超過をビジュアルに把握する
時間外労働が一定の数値を超えた場合に任意の色で表示したり、管理画面で「対応が必要な処理」としてアラート表示することも役立ちます。
以下の機能を活用し、従業員の労働時間の実態を把握しましょう。
☞ 一定の数値を超過している、あるいは不足している勤怠を抽出・確認することはできますか?
☞ 時間外労働の上限時間を設定することはできますか?
☞ 勤務が一定時間、日数を越えた場合、メールで通知することはできますか?
長時間労働に関する労災申請は増加
今年6月に厚生労働省が公表した「平成30年度過労死等の労災補償状況」によると、平成30年度の長時間労働に関する労災請求件数については、下記のとおりとなっています。
1 )脳・心臓疾患に関する事案
・請求件数877件
平成26年度(763件)からの5年間で区切ってみると毎年増加。
・支給決定件数は277件から238件とおよそ減少傾向
・認定率(※)も43.5%から34.5%と減少傾向
(※請求された件数のうち、その年に業務上か業務外か決定した件数に対する支給決定件数)
2 )精神障害に関する事案
・請求件数1,820件
こちらも平成26年度(1,456件)から毎年増加。
・支給決定件数は497件から465件と減っているが、間は上下動あり
・認定率は38.0%から31.8%とおよそ減少傾向
☞ 平成30年度過労死等の労災補償状況(厚生労働省㏋)
■ 参考
長時間労働により、業務と発症との関連性が強まるとされており、例えば、1)の脳・心疾患の労災認定基準については
1. 異常な出来事
2. 短期間の過重労働
3. 長期間の過重労働
と3つの区分があり、3. 長期間の過重労働については下記のようにされています。
① 発症前1か月間におおむね100時間
② または発症前2~6か月間の1か月平均がいずれかの期間でおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できること
※さらに労働時間以外の負荷要因も加味
☞ 脳・心臓疾患の労災認定(厚生労働省)
☞ 精神障害の労災認定(厚生労働省)
労災が認められた場合の影響
労災が認められた場合、安全配慮義務違反があったなどとして、民事で使用者責任を問われ損害賠償請求をされる可能性もあります。
その請求が必ず認められるわけではありませんが、国が労災と認定すれば、使用者責任が多かれ少なかれ認められる可能性も高まるといえるでしょう。
さらに、労災請求において事業主が労災を認める内容の証明をおこなっていたとすれば、より高まると考えられます。
そういった点からも、会社が請求手続きをおこなわなかったり、それとは別に、労災ではないとの会社の認識から所定の欄に事業主証明をおこなわない場合もあるかもしれません。
しかし、そもそも労災保険給付の請求については、あくまで労働者またはその遺族がおこなうものであり、請求自体は可能といえます。
前述の労災の請求件数増加については、要因の1つには労働者側の意識等の高まりも考えられます。
(長時間労働も労災になる。会社が手続きしてくれなくても請求するなど)
さらに注目すべきは、認定率は下がっていることです。
これは、とりあえず請求してみようと考える労働者等も少なからずいる(増えている)ともみてとれるのではないでしょうか。
勤怠データをエクスポートする
労災認定において、タイムカードは客観的な資料として判断材料になります。
管理者画面の「エクスポート/インポート」から各種データを必要に応じて出力できます。
☞ 「日別データ[CSV]」とは、何ですか?
☞ 「月別データ[CSV]」とは、何ですか?
☞ 「タイムカード[PDF]」ではどのような値が出力されますか?
無用なトラブルを避けるために
事業主は基本的には労災保険給付の請求に協力すべきですが、一方で長時間労働やセクハラ・パワハラは会社の認識と社員の認識とで相違が出たり、判別しづらい場合もあります。
認識の相違により労災か否かでトラブルとならないように注意も必要です。
労働者の記載内容が事実と異なるときやその内容に承服できない場合は、会社の考えや認識を丁寧に誠意を持って説明し、理解を得るための努力が必要です。
結果、理解が得られない場合に、請求手続きや証明をしないという対応ではなく、労基署には「証明拒否理由書」を提出します。
また、安易に(事実に反した)労災請求をおこなったり、労働者のために良かれとの想いからあえて事業主に非があるような証明をおこなってはならないということです。
不正受給の問題はもちろんのこと、悪意がある労働者であれば、善意のつもりがそれを逆手に取られ、さきほど記載した通り、民事で争われ、使用者責任も問われてしまう恐れまで潜んでいるからです。
最後に・・・
労災が起きた際にきちんと対応できるように、日ごろの労務手続き・管理を適切におこなうこと、長時間労働については、多すぎる場合は減らす取り組みもさることながら、争いの余地をつくらないようにしておくことが大切です。
自社の労働時間のルールや運用法の整備(在社時間と労働時間の区別、任意の研修か労働としての研修か、直行直帰の際の労働時間の取り扱い等)社員への説明や教育を丁寧におこない、認識を合わせておくことや日頃から状況をよく把握し適宜、注意指導をおこなっておくことが肝心です。
社員との良好な関係作り、コミュニケーションも大切なポイントといえるでしょう。
以上、「労災事故で絶対やってはいけないこと」についてご案内いたしました。
本記事が皆様のお役に立てれば幸いです。
次回は、今回の記事とも関係のある「メンタルヘルス」について、お伝えする予定です。
夜はめっきり冷え込むようになりました。くれぐれもご自愛ください。
今後もKING OF TIMEをご愛顧いただけますよう邁進してまいりますので、何卒よろしくお願いいたします。