監修:社会保険労務士法人 ヒューマンリソースマネージメント
特定社会保険労務士 馬場栄
監修:社会保険労務士法人
ヒューマンリソースマネージメント
特定社会保険労務士 馬場栄
今週のピックアップ
【労務情報】
◆ 改めてストレスチェックの目的とその背景
◆ 実施対象となる企業
◆ ストレスチェック制度の流れ
◆ 就業規則への規定
◆ ストレスチェックの実施時期について
◆ まだストレスチェック未実施の会社の対応方法
◆ 企業のリスクマネジメント
【KING OF TIME 情報】
◆ 有給休暇5日取得義務
◆ 時間単位休暇
◆ KING OF TIME データ分析「取得率統計」
☞ KING OF TIME 情報は 《 こちら 》
改めてストレスチェックの目的とその背景
ストレスチェック制度は2015年12月1日に施行され、5年を迎えようとしています。
制度の目的は、社員のメンタルヘルス不調の未然防止であり、定期的に社員のストレスがどのような状態にあるか検査を行い、それにより社員自身の気づきを促し、ストレスの原因となる職場環境の改善につなげることです。
ストレスチェック制度がスタートした背景としては、近年の精神障害の労災認定件数が増加の一途を辿っていることがあります。
厚生労働省が公表した令和元年度「過労死等の労災補償状況」によると、精神障害に関する事案の労災請求件数は過去最多の2,060件に上り、そのうち支給決定件数は506件ありました。
ストレスチェックが始まった2015年は請求件数が1,515件、支給決定件数は472件です。この5年間を見ても毎年増え続けています。
<参考>厚生労働省HP
☞ 令和元年度「過労死等の労災補償状況」
>>> 詳しくはこちら ※外部リンクに推移します
☞ 精神障害の労災補償状況
>>> 詳しくはこちら ※外部リンクに推移します
ここで注目したいのは、2019年は2015年と比較し、請求件数136%、支給決定件数107%とともに増加、一方で支給決定率は31%から25%と低下していることです。
逆に言えば、請求は行われたが認定されなかった率が上昇したということですが、これは、認定される事案でないが請求する(請求したが結果的に認定されなかった)、つまり、精神疾患が発症した場合にこれは労災ではないか?と考える方が増えた、すなわち、そうした意識が高まってきていることも一因と考えられるのではないでしょうか。
<参考>
■ 分類ごとの支給決定件数
※多い順:件数の後ろの( )内はそれぞれの請求件数に対する支給決定件数割合
〇 業種別(大分類)
製造業90件(25%)、医療・福祉78件(18%)、卸売業・小売業74件(26%)
〇 職種別(大分類)
専門的・技術的職業従事者137件(27%)、サービス職業従事者81件(26%)、事務従事者79件(17%)
〇 年齢別
40~49歳170件(26%)、30~39歳132件(26%)、20~29歳116件(27%)
■ 支給決定した事案の理由ごとの件数
※多い順:件数の後ろの( )内は総支給決定件数に対する割合
〇 時間外労働時間別(1か月平均)
20時間未満68件(13%)、100時間以上~120時間未満63件(12%)、120時間以上 ~140時間未満45件(9%)
〇 出来事別
(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた79件(15%)、仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった68件(13%)、悲惨な事故や災害の体験、目撃をした55件(11%)
ここで注目したいのは、支給決定のうち、時間外労働時間が20時間未満の件数が多いことです。100時間超の件数もそれに次いでいますが、精神疾患は労働時間が長くなくても起こりうるということです。
また出来事別では2番目に仕事内容・量の変化とあります。変化はストレスを生じさせやすいため、今回のコロナ禍で仕事環境が変化した場合にも大なり小なり影響が懸念されます。また、仕事内容や量の変化は労働時間数にも影響が出やすいため、そうした変化を見落とさないよう留意が必要です。
特にテレワークなど本人の顔が見えづらく、職場で顔を合わせている場合に比べ、社員の状態の変化にも気づきづらいことも考えられるため、注意しましょう。
以下で、ストレスチェック制度について詳しく説明していきます。
実施対象となる企業
実施が義務付けられている事業所は、常時使用する社員が50人以上の事業所です。
常時使用する社員が50人以上か否かのカウントは、会社全体の社員数ではなく、支点・営業所・工場・店舗などの単位となります。また、常態として使用されている社員かどうかで判断します。
ここで言う「常態」とは、以下のとおりで健康診断の実施義務がある方と同じです。
・1年以上継続して雇用される見込みがある
・1週間の所定労働時間が同じ職場の正社員と比較して4分の3以上
50人未満の事業所や短時間アルバイトなど対象外の社員への実施は任意です。
そのため対象外の社員からの要望があったとしても実施する義務はありませんが、精神疾患罹患社員の発生未然防止、安全配慮義務履行の一つの形として会社の実態に応じて実施を検討してみても良いかも知れません。
また、複数事業所がある会社で事業所によって50人以上であったり50人未満である場合、50人以上の事業所はストレスチェックを行い、50人未満のところは行わないとするよりは、一律行った方がよいでしょう。
すべての事業所が50人未満であっても、会社全体で50人を超えるようであれば、こちらも義務ではありませんが、上記観点から、実施を検討された方がよいと考えます。
ストレスチェック制度の流れ
ストレスチェック制度の流れは以下の通りです。
(1)医師、保険師等のもと、調査票を用いてストレスチェックを行います。
※ストレスチェックの結果通知については、必ず社員本人に対して先に行わなければなりません。会社に通知する場合は、社員が結果を確認したうえで同意を得て、会社に通知する流れとなります。
(2)ストレスチェックの結果、社員から面接の申出があった場合には、医師による面接指導を行います。
(3)医師は面接指導の結果のうち、社員の安全や健康に関する情報を社員の同意を得た上で会社へ通知します。
(4)面接指導の結果を受け、会社は医師へ意見聴取を行います
(5)医師の意見を基に、必要に応じて配置転換、労働時間の短縮など、就業上の措置を講じます。
(6)ストレスチェックの結果を踏まえ、職場ごとに集団的分析を行います(これは任意実施)
<参考>厚生労働省㏋
☞ ストレスチェック制度の実施手順(P.2)
>>> 詳しくはこちら ※外部リンクに推移します
就業規則への規定
ストレスチェックを実施したくない社員がいた場合、その社員に対して実施を強制できません。また前述のように、結果の通知については本人の同意が必要であり、同意がない場合は会社で状況を把握し、問題があれば対処するということができなくなってしまいます。
そのため、社員にストレスチェックの受験を促すとともに、受験結果を把握し会社が適切な対処を行うために、就業規則に受診および受診結果を会社に通知することを促す旨を記載しておくことをお勧めいたします。
また、社員の中には、下記のような不安を抱えた方もいます。
「プライバシーが保護されるのか?」「仮に高ストレス者となった場合、社内でストレス耐性が低い者とレッテルを貼られたり、差別的な対応を受けないか?」
こういった社員は、ストレスチェックに対し意図的な回答をしたり、結果について正直に申告しない可能性があります。こちらに対しては、就業規則に下記の旨を記載し周知することで、社員の不安を取り除くことが期待できます。
「ストレスチェック結果や面接指導結果などの個人情報は適切に管理し、社内で共有する場合にも必要最小限の範囲に留めます」
「ストレスチェックの結果や面接指導の結果を理由として、解雇、雇い止め、退職勧奨、不当な動機目的による配置転換、 職位の変更を行うことはしません」
ストレスチェックの実施時期について
毎年1回の実施が義務となっている会社については、同じく毎年行う定期健康診断の時期に合せて行うのもよいでしょう。
健康診断で医師の問診時に会社からあらかじめ聞いて欲しいことを依頼しておくことも有用でしょう。
もちろん別々に行っても構いませんが、業務の忙しい時期は避けた方がよいでしょう。なぜならそのような時期は、ストレスチェックを行うまでもなく、一時的にストレスが高まりやすいと自他ともに想像しやすいためです。
つまり、ストレスチェックの目的(自らのストレス状況について気付きを促すことによって、不調のリスクを抑制し、未然に防ぐこと)、すなわち、通常の状態で抱えている気づかぬストレスを見極めることが難しいと考えられるためです。
社員のストレスの状態を適切に把握して、職場環境の整備に役立てるようにしましょう。
まだストレスチェック未実施の会社の対応方法
医師や産業医が不選任などストレスチェックにまだ手つかずの会社や、もっと効果的に運用できないかとお考えの会社もあるかと思います。
そういった会社のためのストレスチェック実施に関する問い合わせ窓口として、下記のような機関を利用するのも一案です。
<参考>独立行政法人労働者健康安全機構
ストレスチェック制度に係る実施方法や職場環境の改善など、専門的な相談に応じて解決方法等を無料でアドバイスしてくれる電話相談窓口になります。
☞ ストレスチェック制度サポートダイヤル
>>> 詳しくはこちら ※外部リンクに推移します
上記、機構内の都道府県産業保険総合支援センターによる
「ストレスチェック制度導入のための個別訪問による支援」
産業カウンセラーや社会保険労務士などのメンタルヘルス対策の専門家が事業場へ直接訪問し、取り組むべきことや導入方法などについて、具体的なアドバイスをする支援を無料で行っています。
☞ 例)東京都産業保険総合支援センター
>>> 詳しくはこちら ※外部リンクに推移します
☞ 産業保険総合支援センター:一覧(全国47か所)
>>> 詳しくはこちら ※外部リンクに推移します
その他、民間の外部機関に委託することも検討できますが、相応のコストがかかります。費用対効果を踏まえ、まずは会社で行える部分なのか、外部に委託する部分なのかを明確にすることから始めましょう。
なお、保険会社においては、業務災害補償保険に加入してるお客様向けに、無料もしくは割引料金でストレスチェックサービスを提供してるところもあります。業務災害補償保険に加入している会社であれば、ストレスチェックサービスがあるか、加入している保険会社に確認してみるのもよいでしょう。
企業のリスクマネジメント
メンタルヘルス不調者の特徴の一つとして、睡眠時間が少ないことや、良質な睡眠を取れていないことが挙げられます。しかし、ストレスチェック制度で一般的に利用されている「職業性ストレス簡易調査票(57問式)」では、睡眠時間に関する質問項目はありません。
<参考>厚生労働省
☞ 職業性ストレス簡易調査票(57問式)
>>> 詳しくはこちら ※外部リンクに推移します
つまり、ストレスチェックを行っているから、社員への安全配慮は万全だ(社員のメンタルヘルス不調を予見できる、安全配慮義務を尽くしている)とは言い難いのが実情であり、そのひとつの方法と考えるべきでしょう。
日頃から従業員との会話の中で表情や言動を確認したり、勤務時間やレスポンスの変化、場合によっては睡眠時間のチェックをすることなども必要ではないでしょうか。特にテレワークなど顔が見えづらい社員については留意しましょう。
また、採用選考時に応募者の1日の平均睡眠時間を確認することでメンタルヘルス不調者の予備軍をそもそも採用しない、というリスクマネジメントも有効かと思います。
KING OF TIME 情報
今回は有給休暇に関する機能を3つご紹介します。
◆ 有給休暇5日取得義務
◆ 時間単位休暇
◆ KING OF TIME データ分析「取得率統計」
有給休暇5日取得義務
本製品では、「有給休暇5日取得義務」の管理に対応しています。
取得日数を満たしていない従業員がいた場合、「対応が必要な処理」にアラートを表示し、対象の従業員を一覧で確認できます。アラートを表示するタイミングは、任意で設定できます。
☞ 有給年5日以上取得義務に対応していますか?
時間単位休暇
労使協定の締結により、年間最大5日間分の時間単位休暇の取得が法律上で認められています。
本製品でも、時間単位休暇の取得、年間上限数(最大5日間など)の管理が可能です。
☞ 有休などの休暇を時間単位で取得できますか?
KING OF TIME データ分析「取得率統計」
「KING OF TIME データ分析」と連携すると、有休の取得率に関するデータを確認できます。
取得率は会社全体はもちろん、所属や従業員別にも確認できます。
なお、「有給休暇5日取得義務」も「KING OF TIME データ分析」で管理できます。
☞ 「取得率統計」では、どのようなことが確認できますか?
本記事が皆様のお役に立てれば幸いです。
次回は、「実務に役立つ!労働裁判例シリーズ(同一労働・同一賃金編)」についてお伝えする予定です。
今後もKING OF TIMEをご愛顧いただけますよう邁進してまいりますので、何卒よろしくお願いいたします。