監修:社会保険労務士法人 ヒューマンリソースマネージメント
特定社会保険労務士 馬場栄
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ヒューマンリソースマネージメント
特定社会保険労務士 馬場栄
今週のピックアップ
【労務情報】
◆ 1分単位が原則
◆ 丸め処理にまつわる裁判例
◆ 唯一認められている丸め処理とは?
◆ 出勤打刻時刻は労働開始時刻?
◆ より厳格な時間管理をするのであれば
◆ 労働時間以外の丸め処理
【KING OF TIME 情報】
◆ 集計値の丸め処理
◆ 出勤打刻の丸め処理
◆ 出勤予定前・退勤予定後の打刻のみなし丸め処理
◆ カスタムデータ項目の丸め処理
☞ KING OF TIME 情報は 《 こちら 》
1分単位が原則
お客様の就業規則見直しに携わった中で、給与計算を行う上での事務手続きを簡素化するため、1日の労働時間数の端数を切り捨て、きりの良い単位に丸め処理を行っているケースを散見します。
給与計算事務の簡素化のため、労働時間の丸め処理を行う気持ちもわからなくもないですが、実はここに大きな落とし穴があります。
なぜなら、労働基準法では労働時間は1分単位でカウントすることが原則だからです。
安易に丸め処理を行った結果、法違反としてトラブルに発展する可能性があるので注意しましょう。
丸め処理にまつわる裁判例
労働時間の丸め処理を行った結果、トラブルに発展した裁判例をご紹介したいと思います。
A社事件(名古屋地裁 平成31年2月14日判決)
<事件の概要>
・医療業を営むA社では、診療室への入退室時刻を時計で確認し、記録することで労働時間管理を行っていた。
・同社では、所定労働時間を超えた残業時間について、15分未満の時間を切り捨て、給与計算を行っていた。
・医師Bは、そのような丸め処理は法律上認められないとして、切り捨てられた労働時間に相当する未払い賃金を請求した。
・A社は、医師の診療行為には裁量権があることや、診療終了時刻の直前に受付けられた患者に対する診療は、医師の応召義務に基づくものであるから、15分未満の時間を切り捨てることは労働基準法違反ではないと主張した。
<裁判所の判断>
裁判所は、以下の判断で会社に対して未払い残業代の支払いを命じました(A社が敗訴)。
労働基準法では、労働時間の端数処理を行うことは原則として許されず、労働時間については、労働日ごとに1分単位で把握しなければならない。
よって、15分単位などの一定単位未満の端数の切り捨て処理を行うことで、実労働時間よりも少ない時間として、労働時間を集計することは認められない。
唯一認められている丸め処理とは?
上記の通り、労働時間のカウントは1分単位が原則です。
一方で、事務処理の簡素化を目的に、以下の丸め処理については認められております。
1か月での時間外労働、休日労働、深夜労働の各々の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合は、30分未満の端数を切り捨て、30分以上の端数を1時間に切り上げること。
注意すべき点は、あくまで「1か月単位」での時間外労働等の時間数に対して特例として認められている丸め処理であって、「1日単位」での労働時間数に対する特例ではないという点です。
よって、日々の時間外労働、休日労働、深夜労働の時間数に対して上記丸め処理をすることは、法違反ということになります。
なお「1日単位」で丸め処理をする際に、端数を切り捨てするのではなく、一律切り上げするのであれば、それは法律で定められている内容以上の対応であり、よって労働者有利の取扱いとなりますので問題ありません。
出勤打刻時刻は労働開始時刻?
労働時間のカウントは、1分単位が原則であることをご説明しました。
そのような話しをした時に、以下のようなご質問を受けることがあります。
当社の始業時刻は9時00分で、早く出社することは命じていない。
社員はだいたい始業時刻10分前には出社し出勤打刻をしている。
出社してすぐ仕事をしている訳では無くて、同僚と雑談等をしているが、出勤打刻をした時刻が労働開始時刻でしょうか?
労働時間とは、使用者の指揮監督のもとにあり、労働者が時間を自由に利用できない時間のことをいいます。
この労働時間の定義で考えると、上記の例では会社は10分前に出社を命じている訳ではなく、また労働者も雑談をしたりと仕事以外のことで時間を自由に利用出来ているので、労働時間には該当しないと判断できます。となると、労働を開始した時刻は9時00分と判断してもよいでしょう。
また、労働者が始業時刻の何分前に出社しようが、出社し出勤打刻をした直後に業務を開始するというのも一般的には考えにくいです。
よって、法律論では1分単位でのカウントが必要ですが、実務上では「1日の労働時間」を丸め処理するのではなく、「出勤打刻」を実態に応じて5~10分程度丸め処理をするという方法も考えられるでしょう。
より厳格な時間管理をするのであれば
より厳格に出社・退社の時間を管理するのであれば、労働時間と拘束(在社)時間の2つの時間軸で管理をすることや、残業申請制度を採用することも一案です。
<参考>
☞ 労務専門社労士が提案する【時間管理の重要性】
☞ 残業申請制度を採用する際のポイント
しかし、これらの管理方法は形式的に採用するだけではダメで、実態としてきちんと運用されていることが条件になりますので、注意が必要です。
労働時間以外の丸め処理
事務処理の簡素化を目的に、割増賃金の計算について、以下の丸め処理が認められております。
(1)1時間当たりの賃金額、および割増賃金額に円未満の端数が生じた場合、50銭未満の端数は切り捨て、50銭以上の端数は切り上げること。
(2)1か月における時間外労働、休日労働、深夜労働の各々の割増賃金の総額に、1円未満の端数が生じた場合、50銭未満の端数は切り捨て、50銭以上の端数は切り上げること。
また、1か月の賃金支払い額における端数に関しても、以下の丸め処理について認められております。
(1)1か月の賃金支払い額(賃金の一部を控除して支払う場合には控除した額)に100円未満の端数が生じた場合、50円未満の端数を切り捨て、50円以上の端数を100円に切り上げて支払うこと。
(2)1か月の賃金支払い額に生じた1000円未満の端数を、翌月の賃金支払日に繰り越して支払うこと。
なお、1か月の賃金支払い額に関する端数処理については、あらかじめ就業規則や賃金規程などに、その旨を記載しておく必要があります。
無用なトラブルを防止するためにも、安易に違法な丸め処理を行うのではなく、正しい計算を行うことをお勧めします。
KING OF TIME 情報
本サービスにおける集計値の丸め関連の設定機能についてご案内いたします。
◆ 集計値の丸め処理
◆ 出勤打刻の丸め処理
◆ 出勤予定前・退勤予定後の打刻のみなし丸め処理
◆ カスタムデータ項目の丸め処理
集計値の丸め処理
本サービスでは月単位の集計値に対し、丸めの設定が可能です。
例えば、時間外労働に関してなど、1か月の総時間数に1時間未満の端数が生じた場合に30分未満は切り捨て、30分以上は1時間に切り上げる処理を入れたい場合にご利用いただけます。
出勤打刻の丸め処理
出勤打刻の丸め設定は対象の雇用区分設定の「拡張機能」で行えます。
以下の3つからご選択ください。
・常に0分とする(推奨)
・出退勤打刻を出退勤予定時刻により変動させる
・全ての打刻を出勤予定時刻により変動させる
☞ 出勤予定より早く出勤しているのに遅刻がついてしまう場合、どうすればよいですか?
出勤予定前・退勤予定後の打刻のみなし丸め処理
出勤退勤予定の◯分前・後までを出勤・退勤予定時刻と同じ時刻として扱うことができます。最大30分まで指定できます。
例えば退勤予定時刻のみなし丸めを「10分後」と設定した場合、退勤予定時刻が18:00であれば、18:00~18:10までの退勤打刻は18:00に打刻したものとみなして勤怠計算します。
このみなし丸めは勤怠計算時にのみ行われ、出勤打刻時刻はそのまま記録されます。
☞ 「雇用区分設定」の設定方法
カスタムデータ項目の丸め処理
集計項目をカスタマイズできる「カスタムデータ項目」では、算出された最終値に対し、丸めの処理が入れられます。最大60分まで指定できます(「特60」オプションも利用可能)。
丸め時の端数を切り上げる場合は「切上」をチェックします。
「切上」をチェックしない場合は、端数は切り捨てられます。
☞ 集計項目をカスタマイズできますか?
本記事が皆様のお役に立てれば幸いです。
次回は、「 賃金控除のルールを再確認!~ やっていいこと・いけないこと ~ 」についてお伝えする予定です。
今後もKING OF TIMEをご愛顧いただけますよう邁進してまいりますので、何卒よろしくお願いいたします。