監修:社会保険労務士法人 ヒューマンリソースマネージメント
特定社会保険労務士 馬場栄 監修:社会保険労務士法人
ヒューマンリソースマネージメント
特定社会保険労務士 馬場栄
今週のピックアップ
【労務情報】
◆ 試用期間とはそもそも何?
◆ 試用期間のよくある誤解とは?
◆ 試用期間の長さはどれくらいがよいか
◆ 試用期間中の給与設定方法
◆ 試用期間中の社員がうつ病などで入社してすぐに休んでしまった場合
◆ 有期の雇用契約社員で採用し見極める
【KING OF TIME 情報】
◆ 月別データとは
◆ 月別データの活用法
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試用期間とはそもそも何?
試用期間は一般的に、採用した従業員に自社社員として、また仕事に対しての適格性・適応性(知識、経験、スキル、勤務態度や協調性、人柄など)があるか否か見極める期間です。採用選考ではなかなか見えづらい部分もあるため、実際に業務を行う中でそれらを見ていき、本採用するか否かを判断します。
法律では、試用期間についての定めはなく、基本的には会社がその期間の長さや期間中の給与設定等、自由にルールを決められますが、その分、試用期間に関する誤解も多くトラブルになることも多いです。
判例では、試用期間中に会社側が社員として相応しくないと判断した場合には、解雇できる権利を持っている期間(解雇権留保付労働契約)とされ、本採用後の解雇よりも裁判所は広く認める傾向にありますが、本採用拒否や試用期間中の解雇も争いに発展するケースが多いため注意が必要です。
試用期間のよくある誤解とは?
➀入社14日以内であれば、いつでも解雇できる?
労働基準法では、「試みの試用期間中で14日以内の者には、30日前の解雇予告やそれに代わる解雇予告手当は不要」とされています。
しかし、これはあくまで解雇する際の手続きが不要という話であり、この期間であっても、解雇するには合理的・客観的な理由等がなければなりません。特に理由が「適性がない」や「能力不足」というものであったり、対象が新卒の社員であれば「見極めや教育にもっと時間を掛けてあげるべき」などとして、解雇が無効とされる可能性があります。
➁試用期間中または試用期間満了時に解雇できる?
前述のように、判例に基づけば試用期間中は本採用後よりは解雇が認められやすいと考えられるものの、「試用期間中または試用期間満了時だから」という理由だけでは、やはり簡単に解雇はできません。試用期間と言っても雇用契約が成立している状態であり、こちらも合理的・客観的な理由等が必要となります。
こうした場面でのトラブルの発端は、そもそも本採用の基準があいまいであったり、いきなり社員に本採用しませんと伝えることにあります。この場合、対象の社員は「知らなかった」「聞いていない」「特に注意されなかった」「自分なりにがんばっていた」などと納得せず、トラブルに発展しやすくなります。
こうしたトラブルを防ぐためには、まず本採用の基準を明確にすることと適宜、指導・教育を行うことが必要です。
試用期間はお試しだからと言って、「そっと様子を見ておこう。気になるけどあまり言ってもいけないので。」などとしてしまうと、新入社員が学んだり改善する機会がありません。新卒であっても中途であっても、採用された会社で働くのは初めてのことであり、会社のルールや考え方、求められるものなどは知らないのは当然です。誰かがきちんと教えてあげなければ分かりようもないのです。そう考えると、むしろ積極的に指導・教育をしてあげた方が新入社員のためと言えるでしょう。
これらを踏まえ、トラブル防止のために下記のような事項を抑えておくとよいでしょう。
・就業規則と雇用契約書に本採用する基準を明確に記載する。
・入社後ではなく内定の段階で本採用基準を社員に丁寧に説明して同意を得る。
(会社が期待している能力、役割、出勤状況、勤務態度など)
・入社後は本採用が適切かどうかを定期的にチェックし記録する。
・遅刻など勤怠に問題がある、能力不足の懸念などがある場合は、都度、改善指導を適切に行い、指導記録をつけておく。
・本採用が難しいと判断される場合、いきなり伝えるのではなく、日常の指導の中であらかじめその旨を社員に明確に伝えておく。
③試用期間中は社会保険に加入しなくてもよい?
試用期間であっても加入条件を満たす場合は、社会保険の加入手続きを行う必要があります。
実務的には少し様子を見てから加入の手続きが行われることもありますが、新入社員が通院している、扶養している子供がいるなどで、早く手続きを行って欲しいといった場合もあるため、適切に行った方が社員の安心感につながります。
逆に、社員で社会保険に入りたくないといった方も中にはいますが、会社は応じる必要はありません。ただ、会社の状況によりますが、特に時短勤務者であれば、話し合いで所定労働時間を加入対象外となるよう短めに契約し、その範囲内で勤務してもらうなどの対応も考えられます。
➃有給休暇の前倒し付与
有給休暇(以下、「有休」)を入社(例:4/1)時点で3日、6か月経過(10/1)したら残りの7日(計10日)を付与するといったルールを設けて運用されている会社もありますが、ここで注意が必要なのは、次の付与日がいつかということです。この場合、翌年の4/1(11日)となります。
試用期間中に病気や私用等もあるだろうということで有休を付与することは、新入社員にとってはありがたいものですが、会社にとっては意図せず次回の付与日が早まったり、有休管理も大変になります。ご検討の場合は、有休ではなく、会社任意の特別休暇を付与するというのも一案です。これにより、有休はあくまで法定通りのルールで運用できますので、管理もシンプルになります。
ちなみに、有休付与に関わる勤続年数には試用期間も含めます。一方で、会社任意の賞与や退職金については、試用期間をその算定期間に含めるか否かも会社の自由です。
試用期間の長さはどれくらいがよいか
試用期間の長さについても法的な決まりはありません。判例では、常識論を踏まえて、長くても1年間という考え方は出ていますが、一般的には3か月とされている会社が多く見られます。
ただ、試用期間という社員にとって身分の不安定な期間をいたずらに長くする必要はありませんが、実務的には前述の適格性や適応性を見極め、もし本採用拒否とする場合などを考えると、3か月という期間では短いとも言えます。なぜなら、仮に本採用しない場合、対象の社員に対して1か月前には通知をすると考えると、実質2か月で判断しなければならないということになるためです。
そのため、社員の仕事への適格性をしっかり見極めるには、試用期間を長く取ることが有効です。短くする場合は、きちんと見極めるための基準や仕組みを準備しておきましょう。
ただ、中途採用であれば前職での実務経験があり、スキルなどを基準に判断しやすいとも言えますが、新卒採用の場合は働くこと自体が初めてで、争いになった場合は十分に指導教育を行ったかなども考慮されるため、その点からも試用期間は長めの方がよいでしょう。
試用期間が長いと求人の際に求職者に敬遠されるのでは? という懸念もあるでしょう。これは採用とトラブル回避のどちらに軸足をおくか会社のご状況や考え方によりますが、長めにする場合は求人票に短縮する場合がある旨を記載し、選考時などに基準などとともに説明するとよいでしょう。
就業規則にも、試用期間を6か月とし、社員の適格性に応じて試用期間を短縮する場合がある旨を定めておきます。
試用期間中の給与設定方法
採用難の中、人材獲得のため給与を高めに設定する会社もあります。特に中途採用の場合は、前職の給与を考慮して設定することも多いと思います。ただ、既存社員とのバランスが崩れたり、実際の能力や働きぶりを見たら給与が高すぎたと言ったケースもあるでしょう。
こうした課題への対策の1つとして、試用期間中は「調整手当」を活用する方法があります。これにより、社員を見極めた上で本採用時の給与を決定したり、それに対し社員のモチベーションを高めることも期待できます。
特に基本給は、会社の賃金・評価制度との連動や既存社員とのバランス、下げる場合には不利益変更の問題などあり、柔軟に変えづらい傾向があります。
一方で、支給目的を明確にした調整手当であれば、既存の賃金・評価制度に関わらず、支給の有無や金額を設定できるなど、基本給と比較して柔軟に運用することができます。
例えば、経験者採用で応募者の前職給与が30万円で、自社での評価は(スキル経験、既存社員とのバランスなど考慮し)27万円となった場合、3万円のギャップが生じます。27万円で提示すれば辞退されてしまうことも懸念されます。
会社がどうしても採用したい場合の方法の1つとしては、前職給与に合わせ30万円の提示となるでしょう。ただ、その場合に基本給を30万円とするのではなく、調整手当を含め総額30万円として提示するのです。
例)試用期間中:基本給27万円+調整手当3万円=総額30万円
そして、入社頂いた場合は、試用期間中に新入社員のスキル経験等が確かなものかしっかりと見極めたうえで、本採用時の給与を決定します。
会社が期待した基準であった場合
→「基本給30万円」のように、調整手当分の金額を基本給に組み入れます。
会社が期待した基準に達しなかった場合
→「基本給27万円」のように、調整手当の支給を止めて、基本給27万円で本採用します。
具体的な調整手当の導入方法については、以下の通りです。
・給与規程に調整手当を記載する。
例)調整手当:(前職給与を考慮し、また)職務遂行能力等が不確かな場合、試用期間中に支給する。
・社員に説明し合意を得る。
入社時に試用期間中の給与に調整手当を盛り込むこと、本採用時に給与が変動すること、その基準を説明し、合意を得る。
試用期間中の社員がうつ病などで入社してすぐに休んでしまった場合
入社後ほどなくして怪我や病気などで長期欠勤し、休職制度があればそれが適用されると、試用期間を経過してしまい会社としては困ることもあるでしょう。
そのような場合に備え、就業規則に本採用拒否事由として「身体または精神の状態が勤務に耐えられないと会社が判断したとき」や、休職制度の中で「試用期間中の社員は休職制度の対象外とする」ことなども規定しておくとよいでしょう。
上記について入社時に説明しておき、いざと言うときは、規定に基づき対応を進めていきます。実際の運用としては復帰の可能性を考慮して、その社員の復職を1~2か月間待つことも1つの方法です。休職となった社員に復職してもらうための配慮を会社が行えば、通常であれば相手も納得し、トラブルに発展しづらいと言えるでしょう。
有期の雇用契約社員で採用し見極める
繰り返しとなりますが、一度採用した社員に対し、試用期間満了後、本採用しないことは簡単ではありません。そこで、正社員として採用するのではなく、契約期間のある社員として採用し、契約期間の中で見極めることも一案です。
有期の雇用契約であれば、雇用期間満了に際して、会社は以下の3つの選択肢の中から選ぶ対応が可能です。
➀社員としての適格性があった場合、正社員として採用します
➁適格性をもう少し確認したい場合、再度契約社員として更新します
➂社員として不適格な場合、期間満了で契約を終了します
なお、有期雇用契約が形だけのものになってしまうと、有期契約期間がいわゆる試用期間つまり、最初から無期雇用契約であったとみなされる恐れもあります。そのため、正社員登用試験を設けるなど、有期雇用契約と無期雇用における試用期間が区別できるようにしておきましょう。合わせて、就業規則にも有期雇用契約について記載する必要があります。
まず有期雇用契約社員として採用する方法は、どちらかと言うとリスクマネジメントに軸足を置いた方法となり、これも前述のように、会社のご状況や考え方によります。ただ、採用難において「契約社員の募集では、人が集まらない」と思うかもしれませんが、求職者側によっては、良い意味で契約社員の方が応募の敷居が低かったり、いきなり正社員で入るよりは、契約社員で会社の様子を見てと考える人も少なからずいます。さらに、正社員登用制度やその基準、実績など丁寧に書いておくことで、正社員に向けてがんばろうと入社後のキャッチアップやレベルアップに意欲的に取り組んでくれることなども期待できるでしょう。
KING OF TIME 情報
今回は月ごとに従業員の勤怠確認ができる『月別データ』画面についてご案内いたします。
◆ 月別データとは
◆ 月別データの活用法
月別データとは
月別の出勤日数や休暇取得数、労働時間などの集計データを確認できる画面です。
☞ 「月別データ」とは何ですか?
月別データの活用法
以下の項目を併せてご確認ください。
1.集計項目の確認
所属、雇用区分、表示日などを指定し、指定した範囲の合計値をご確認いただけます。
例:正社員の2月の残業合計時間を確認したい場合
2.アラート対象者を表示
アラート設定にて、登録した条件に該当した従業員を表示することができます。
例:月別で残業20時間超過した従業員を確認したい場合
☞ 一定の数値を超過している、あるいは不足している勤怠を抽出・確認することはできますか?
3.勤怠締め
所属、雇用区分、表示日など指定した範囲の勤怠を一括で締め処理することができます。
☞ 「勤怠を締める」とは何ですか?
4.月別データ[CSV]のエクスポート
エクスポート・インポート画面の「月別データ[CSV]」より、出力したい項目のレイアウトを作成することで、月別または任意の期間の集計データを出力できます。
給与システムに取り込むための集計データを出力する際はこちらをご活用ください。
☞ 「月別データ[CSV]」とは、何ですか? ※データ出力(エクスポート)
5.人件費概算出力機能
《 こんな企業におすすめ 》 飲食、小売など月のおおまかな人件費を確認したい企業
オプション機能を使用し、月給・日給・時給単価や日別交通費の設定をすることで、月別データ画面より人件費概算をご確認いただけます。
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