監修:社会保険労務士法人 ヒューマンリソースマネージメント
特定社会保険労務士 馬場栄 監修:社会保険労務士法人
ヒューマンリソースマネージメント
特定社会保険労務士 馬場栄
今週のピックアップ
【労務情報】
◆労働時間集計・給与計算の方法等も見直しましょう
◆割増賃金の基礎となる1時間当たりの賃金の計算方法について
◆割増賃金を計算する際に除くことができる賃金について
◆割増率と割増手当の支給について
◆時間外割増:125%
◆休日割増:135%
◆深夜割増:25%
◆端数処理
【KING OF TIME 情報】
◆休暇失効通知とは
◆休暇失効通知の活用法
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労働時間集計・給与計算の方法等も見直しましょう
働き方改革などを通じて、時間管理の重要性についての認識が高まってきていると感じています。
実務的には、労働時間の把握を適正に行ったうえで、次に行うのが労働時間の集計、給与計算となりますが、これらの方法が間違っていると、意図せず賃金不払いが発生してしまうこともありえます。改めてその方法を確認し、合わせて給与規程も見直してみましょう。
割増賃金の基礎となる1時間当たりの賃金の計算方法について
ご存じのとおり、月給の場合、割増賃金の計算の基礎となる1時間当たりの賃金(以下、基本単価)は、以下の計算方法で導き出せます。
基本単価=月給÷月の平均所定労働時間数
※月の平均所定労働時間数=(365日−年間の休日数)×1日の所定労働時間数÷12か月
ここで注意したいのが休日と休暇の違いです。
休日は元々、労働義務がない日です。一方で、休暇は有給休暇などのように、元々は労働日のところ、会社が労働義務を免除した日となります。名称は休暇(例えば、夏季休暇や年末年始休暇など)でも、就業規則に休日として定めている場合は、休日としてカウントする必要がありますので注意が必要です。
<参考>
1日の所定労働時間8時間、休日125日、月給32万円場合、基本単価は下記のように算出します。
月平均所定労働時間=(365日−125日)×8時間÷12か月
月平均所定労働時間=160時間
基本単価=32万円÷160時間=2,000円
割増賃金を計算する際に除くことができる賃金について
原則すべての賃金(手当)が対象となりますが、下記の賃金については、割増賃金を計算する際に除くことができます。なお、これらの手当は例示ではなく限定列挙されているものであるため、該当しない賃金はすべて含めなければなりません。
■割増賃金の基礎となる賃金から除外できるもの
➀家族手当
➁通勤手当
➂別居手当
④子女教育手当
➄住宅手当
➅臨時に支払われた賃金
➆1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
ただし、上記の手当であっても、下記のような場合は割増計算の基礎に含める必要があるため注意が必要です。
➀家族手当:〇扶養家族の人数またはこれを基礎とする手当額を基準として算出した場合
×扶養家族の有無、家族の人数に関係なく一律に支給する場合
②通勤手当:〇通勤距離または通勤に要する実際費用に応じて算定される場合
×通勤に要した費用や通勤距離に関係なく一律に支給する場合
➄住宅手当:〇住宅に要する費用に応じて算定される場合
×住宅の形態ごとに一律に定額で支給する場合
会社によっては、役職手当や営業手当、皆勤手当、調整手当などを除外しているケースも見かけますが、法的に除外することはできません。また、賞与については、基本的に割増計算から除くことができますが、年俸制で、あらかじめ賞与の支給額が決定している場合には臨時的の賃金とはみなされず、割増計算の基礎に含める必要があるため注意が必要です。例えば「年俸金額÷14か月」を月給の金額とし、残りの2か月分を夏・冬の賞与で1か月分ずつ支払っているような場合などが該当します。
☞ <参考>割増基礎の基礎となる賃金とは?(厚生労働省㏋)
割増率と割増手当の支給について
割増は時間外割増、休日割増、深夜割増があり、それぞれ割増率が定められており、割増の対象となる時間は、原則、下記のとおりです。
➀時間外割増(手当) 125%
→法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えて労働した時間数
➁休日割増(手当) 135%
→法定休日に労働した時間数
➂深夜割増(手当) 25%
→深夜(22時〜翌5時まで)の時間帯に労働した時間数
※時間外割増(手当)は、月60時間超の場合150%(中小企業は2023年4月から)
少し見方を変えると、下記のように割増ごとに捉える時間が異なります。勤怠集計や勤怠システムの設定時などに、混乱しやすい部分でもあるため、一度、整理しておきましょう。
➀時間外割増:一定の時間数を超えて労働させた時間(数)
➁休日割増 :特定の日に労働させた時間(数)
➂深夜割増 :特定の時間帯に労働させた時間(数)
時間外割増:125%
時間外割増は、法定労働時間を超えた時間(原則、1日8時間超、週40時間超。以下「時間外」)に対し支払います。
例1:所定労働時間数と法定労働時間数が同じ場合
始業時刻9時~終業時刻18時、月〜金曜日勤務
(休憩1時間、所定労働時間数1日8時間、週40時間)
※所定労働時間数は、会社が決めた社員に働いてもらう予定の時間数
上記の例で19時まで労働させた場合は、休憩時間を除くと1日9時間の労働時間となるため1時間分の時間外が発生します。
また週で見ると、例えば月曜日から金曜日まで出勤し、その週の土曜日も出勤した場合、通常であれば、週の労働時間が40時間を超えることになります。この場合、土曜日に労働させた時間は時間外となり、時間外割増手当の支給が必要となります。
※なお、月60時間超の時間外労働に対しては、150%の時間外割増手当の支給が必要です。(2023年4月から中小企業に対しても適用)
賃金を正しく支払うためにも、日、週、月と丁寧な労働時間の管理が、より大切になります。
上記の例1のように1日や週の所定労働時間数が法定労働時間数と同じ場合は、所定労働時間数超=法定労働時間数超となります。そのため、会社によっては給与規程で下記のように定めているケースがあります。
■終業時刻を超えて(過ぎて)労働させた場合は時間外割増手当を支払うと定めているケース
→例えば、始業時刻が9時のところ1時間遅刻し、10時に始業、19時に終業(休憩1時間)させた場合、実働が8時間を超えていなくても終業時刻である18時を過ぎて労働させた分は割増手当を払う必要があります。
■土曜日に労働させた場合は時間外割増手当を支払うと定めているケース
→週の場合も同様に、例えば同じ週に祝日などあり実働が40時間を超えていなくても、土曜日に労働させた分は割増手当を支払う必要があります。
意図して行っている場合や給与計算を行う方などがきちんと把握し、その通りに行われていれば問題ありませんが、そうでない場合などは、規定と運用(勤怠集計や給与計算)がずれており、未払いが発生している可能性もありますので注意が必要です。
例2:所定労働時間数が法定労働時間数より短い場合
始業時刻9時〜終業時刻17時、月〜金曜勤務
(休憩1時間、1日の所定労働時間数7時間、週35時間)
こちらの条件で、同じく19時まで労働させた場合は、17時以降はいわゆる残業となりますが(呼び方は会社によってさまざまです。所定外勤務、法定内残業など)、細かく見ると17時〜18時までは法定の労働時間数である8時間未満の労働、18時〜19時までは法定の労働時間数である8時間を超える労働となります。
17時〜18時までの労働については、法定労働時間を超えていないため、時間外割増は不要ということになります。ただし、これはあくまで割増が不要と言うことであり、月給制であれば、月給は所定労働時間に対して支給している賃金ですので、所定労働時間を超えて労働させた場合には、この所定労働時間を超えた分として月給に加え、賃金の支給が必要となります。この部分が抜けてしまっているケースも見かけますので注意が必要です。
週の場合も同様です。割増の対象となる時間と割増にはならないが追加で支給が必要な時間数をきちんと分けて集計し、給与計算を行う必要があります。
基本単価が2,000円なら
17時〜18時までの1時間分=2,000円 ×1時間=2,000円
18時〜19時までの1時間分=2,000円×1.25×1時間=2,500円
休日割増:135%
休日割増は、法定休日(原則、1週に1日以上)に労働させた時間に対し支払います。
例3:休日週2日(土曜日、日曜日)で日曜日を法定休日としている場合
■休日のうち、日曜日だけ労働させた場合
→土曜日に休日が取れていますが、日曜日を法定休日と定めているため、日曜日に労働させた時間数分の休日割増手当の支払いが必要となります。
■休日のうち、土曜日だけ労働させた場合
→会社所定の休日に労働をさせていますが、法定休日ではないため、休日割増の支払いは不要です。ただし、週40時間を超える場合は時間外割増(125%)、週40時間までは100%の賃金の支払いが必要となります。
なお、法定休日は就業規則で特定する義務まではないため、上記のように休日が週2日ある場合に、どちらかを法定休日と定める必要はありません。この場合、その暦週(日曜〜土曜日)において、後に来る休日が法定休日となるとされています。
そのため、日曜、土曜のどちらかを労働させ、どちらかを休ませた場合は、休ませた日が法定休日となります。日曜と土曜の両方で労働させた場合は、土曜日が法定休日扱い(休日割増の対象)となります。
これにより会社側として休日出勤日を柔軟に行わせやすくなりますが、厚生労働省でも望ましいとしているように、分かりやすさや勤怠集計、給与計算実務の簡便さ、トラブル防止の観点からは、就業規則で法定休日とそうでない休日を明確にして定めておいた方がよいでしょう。
深夜割増:25%
深夜割増は、22時〜翌5時の深夜時間帯の労働に対し支払います。
例4:始業時刻9時~終業時刻18時
(休憩1時間、所定労働時間数1日8時間、週40時間)
こちらの条件で23時まで労働させた場合は、(基本単価が2,000円)
■時間外割増と深夜割増を分けて計算
・まず、1日8時間超の時間外労働を行っているため、
2,000円×時間外割増125%×5時間=12,500円
・1時間の深夜労働となり、深夜割増手当の支払いが必要となります。
2,000円×深夜割増25%×1時間=500円
■時間外割増125%と深夜割増25%を合わせ150%として計算
・18時〜22時までの分=2,000円×時間外割増1.25×4時間=10,000円
・時間外割増時間外労働と深夜割増となる時間帯が重なっている部分は150%として計算
22時〜23時までの分=2,000円×時間外・深夜割増150%×1時間=3,000円
例5:所定労働時間が深夜時間帯に重なっている場合
始業時刻が22時〜終業時刻が翌4時
(休憩なし、所定労働時間数1日6時間)
月給制で所定の労働時間が深夜時間帯である場合には、月給に加えて、深夜割増手当25%を支払います。意外と深夜割増125%と記載している就業規則も見かけますが、前述のとおり、所定労働時間数分の賃金は月給でカバーしているため、深夜割増125%とすると100%の部分を二重に支払うこととなってしまいます。
また、会社の全部または一部の部門などで深夜労働が所定の労働としてある場合には、上記のように深夜労働が必ずしも時間外と一致しない場合があるため、計算を行う上では、時間外割増と深夜割増はそれぞれ分けて時間集計し計算した方がスムーズでしょう。
時間外割増手当として一定の固定残業代を支給されている会社でも、時間外は固定残業代に相当する時間より多いか否か合計時間で比較が必要となりますし、深夜割増は固定残業代とは別に支払う必要があるため、こちらも同様と言えるでしょう。
端数処理
労働時間数については、時間外労働・深夜労働・休日労働ごとに1か月の時間数を合計し、それぞれ1時間未満の端数がある場合には、30分未満は切り捨て、30分以上は切り上げることができます。
賃金額については、下記のような取り扱いが認められています。
■割増賃金の計算
下記を算出した際に1円未満の端数が出た場合は、50銭未満切り捨て、50銭以上を1円に切り上げすることができます。
➀1時間当たりの賃金額(基本単価)
➁1時間当たりの割増賃金額(割増単価)
➂1か月間の時間外・休日労働・深夜労働について、それぞれの割増賃金額(割増手当)
その他にも下記の取り扱いが可能です。
■1か月の賃金計算
➃1か月の賃金額(賃金の一部を控除して支払う場合には控除した残額)に100円未満の端数が生じた場合
→50円未満の端数を切り捨て、50円以上の端数を100円に切り上げる。
⑤1か月の賃金額に1,000円未満の端数がある場合
→その端数を翌月の賃金支払日に繰り越して支払うこと。
端数処理の取り扱いについては、その旨を就業規則に定めておきましょう。
☞ <参考>残業手当等の端数処理はどうしたらよいか(東京労働局)
>>> 詳しくはこちら ※外部リンクに移動します
KING OF TIME 情報
今回は「休暇失効通知」についてご案内いたします。
◆休暇失効通知とは
◆休暇失効通知の活用法
休暇失効通知とは
休暇の有効期限が切れる前に、メールにて従業員・管理者へお知らせすることができます。
メール通知を行なう場合、休暇の有効期限設定と従業員のアドレス登録が必要です。
※「減算」タイプの休暇が対象となり、「加算」タイプの休暇は対象外です。
☞ 休暇の有効期限が切れる前に、メールで通知することはできますか?
休暇失効通知の活用法
有給休暇や夏季休暇など有効期限がある休暇に対して、失効する前に従業員本人へメール通知することで休暇の取得漏れを防ぐことができます。特に休暇の有効期限が短い振替休日や夏季休暇などにご活用いただくことをお勧めいたします。通知タイミングは3回まで設定可能です。任意の日数をご入力ください。
本記事が皆様のお役に立てれば幸いです。
今後もKING OF TIMEをご愛顧いただけますよう邁進してまいりますので、何卒よろしくお願いいたします。