監修:社会保険労務士法人 ヒューマンリソースマネージメント
特定社会保険労務士 馬場栄 監修:社会保険労務士法人
ヒューマンリソースマネージメント
特定社会保険労務士 馬場栄
今週のピックアップ
【労務情報】
◆ 労働時間集計・給与計算の方法等も見直しましょう
◆ 割増賃金の基礎となる1時間当たりの賃金の計算方法について
◆ 割増賃金を計算する際に除くことができる賃金について
◆ 割増率と割増手当の支給について
◆ 時間外割増
◆ 休日割増
◆ 深夜割増
◆ 端数処理
【KING OF TIME 情報】
◆ 休暇みなし時間の設定方法(休暇区分使用)
ー フレックスタイム制(コアタイム有)での休暇みなし時間設定方法
ー 休暇みなし時間設定方法(フレックスタイム制コアタイム有)
☞ KING OF TIME 情報は 《 こちら 》
労働時間集計・給与計算の方法等も見直しましょう
働き方改革などを通じて、時間管理の重要性についての認識が高まってきていると感じています。実務的には、労働時間の把握を適正に行ったうえで、次に行うのが労働時間の集計、給与計算となりますが、そもそものルールや考え方、これらの方法が間違っていると、意図せず賃金の不払いが発生してしまうこともありえます。
労働者の賃金請求権の時効は、民法の改正に伴い、労働基準法も改正され、2020年4月より、従来の2年から3年となりました。(厳密には、5年で当面の間は3年とされています。)
これは施行日以降に支払われた賃金から適用となるため、完全に3年となるのは2023年4月以降となりますが、2022年4月からはいよいよ従来の2年より長くなってきます。
例えば、従業員1人につき、毎日15分誤差があったとしましょう。誤差はひと月(20日)で5時間となります。対象者(月給24万)が30名ほどいると、3年間分の未払い額は、実に1,000万を超えます。
残業単価1,875円×5時間=月9,375円/人
月9,375円/人×30人=月281,250円
月281,250円×36か月=総額1,000万
改めてルールや計算方法を確認するとともに、給与規程も見直してみましょう。
割増賃金の基礎となる1時間当たりの賃金の計算方法について
月給の場合、割増賃金の計算の基礎となる1時間当たりの賃金(以下、基本単価)は、以下の計算方法で算出します。
基本単価=月給÷月の平均所定労働時間数
※月の平均所定労働時間数=(365日−年間の休日数)×1日の所定労働時間数÷12か月
ここで注意したいのが休日と休暇の違いです。
休日は元々、労働義務がない日です。一方で、休暇は有給休暇などのように、元々は労働日のところ、会社が労働義務を免除した日となります。名称は休暇(例えば、夏季休暇や年末年始休暇など)でも、就業規則に休日として定めている場合は、休日としてカウントする必要がありますので注意が必要です。
<参考>1日の所定労働時間8時間、休日125日、月給32万円場合
基本単価は下記のように算出します。
月平均所定労働時間=(365日−125日)×8時間÷12か月
月平均所定労働時間=160時間
基本単価=32万円÷160時間=2,000円
割増賃金を計算する際に除くことができる賃金について
下記に該当しない賃金はすべて含めて計算しなければなりません。会社によっては、役職手当や営業手当、皆勤手当、調整手当などを含めていなかったり、新設した手当の入れ忘れも散見されますので注意が必要です。
■割増賃金の基礎となる賃金から除外できるもの
➀家族手当
➁通勤手当
➂別居手当
④子女教育手当
➄住宅手当
➅臨時に支払われた賃金
➆1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
ただし、上記の手当であっても、下記のような場合は割増計算の基礎に含める必要があるためこちらも注意が必要です。
➀家族手当:
〇扶養家族の人数またはこれを基礎とする手当額を基準として算出した場合
×扶養家族の有無、家族の人数に関係なく一律に支給する場合
②通勤手当:
〇通勤距離または通勤に要する実際費用に応じて算定される場合
×通勤に要した費用や通勤距離に関係なく一律に支給する場合
➄住宅手当:
〇住宅に要する費用に応じて算定される場合
×住宅の形態ごとに一律に定額で支給する場合
☞ 割増基礎の基礎となる賃金とは?(厚生労働HP)
>>> 詳しくはこちら
割増率と割増手当の支給について
割増は時間外割増、休日割増、深夜割増があり、それぞれ割増率が定められており、割増の対象となる時間は、原則、下記のとおりです。
➀時間外割増(手当)
→法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えて労働した時間数
→上記時間数に対して、基本単価×125%を支給
※上記時間数が月60時間を超える分については、基本単価×150%となります。
(中小企業は2023年4月から)
➁休日割増(手当)
→法定休日に労働した時間数
→上記時間数に対して、基本単価×135%を支給
➂深夜割増(手当)
→深夜(22時〜翌5時まで)の時間帯に労働した時間数
→上記時間数に対して、基本単価×25%を支給
時間外割増と重なる場合は150%、休日割増と重なると160%となります。
上記のように、割増ごとに捉える時間が異なります。勤怠集計や勤怠システムの設定の際に、混乱しやすい部分でもあるため、一度、整理しておきましょう。
➀時間外割増:一定の時間数を超えて労働させた時間(数)
➁休日割増 :特定の日(法定休日)に労働させた時間(数)
➂深夜割増 :特定の時間帯(深夜)に労働させた時間(数)
時間外割増
時間外割増は、法定労働時間を超えた時間(原則、1日8時間超、週40時間超)に対し支払います。
ただ、会社によっては給与規程で下記のように定めているケースがあります。その場合は、給与規程に定めたとおりに計算し支払う必要があるため注意が必要です。
■実働の時間数に関わらず、終業時刻を過ぎて労働させた場合は、時間外割増手当を支払うと定めているケース
→これは終業時刻より後の時間については割増を払うということですので、始業9時~終業18時(休憩1時間)であれば、たとえ遅刻を1時間しても19時まで労働させると、実働は8時間で法定労働時間数を超えていなくても、終業時刻後の1時間については、規定のとおり、割増して支払いが必要となります。
■土曜日に労働させた場合は時間外割増手当を支払うと定めているケース
→例えば、ある週に祝日などあり、実働が40時間を超えていなくても、土曜日に労働させた分は規定のとおりの支払いが必要となります。
■所定労働時間数を超えたら時間外割増手当を支払うと定めているケース
→所定労働時間数を1日8時間週40時間としている会社は、所定と法定の時間数が同じため、所定労働時間数超=法定労働時間数超となりますが、所定が法定より短い場合は、差が生じます。
例えば、所定労働時間数1日7時間、週35時間のような場合です。実働9時間では、所定7時間を超えた分はいわゆる残業となりますが、この残業については、原則では、下記のように分けることができます。
基本単価が2,000円の場合、
①実働7時間~8時間までの1時間分=2,000円 ×1時間=2,000円(割増なし)
②実働8時間~9時間までの1時間分=2,000円×1.25×1時間=2,500円(割増あり)
上記①については、会社によって呼び方は、所定外勤務、法定内残業などさまざまですが、この時間については、割増が不要です。
しかし、所定労働時間を超えたら割増と規定している場合は、7時間を超えた2時間分が割増の対象となります。
意図して行っている場合や給与計算担当の方などがきちんと自社ルールを把握し、その通りに行われていれば問題ありませんが、そうでない場合は、会社の認識や規定と運用(勤怠集計や給与計算)がずれており、未払いが発生している可能性もありますので注意が必要です。
給与計算を行うためには、割増の対象となる時間と割増にはならないが追加で支給が必要な時間数などを分けて集計する必要がありますので、システムで管理すると便利です。
勤怠システムを利用している場合は設定も確認しておきましょう。
休日割増
休日割増は、法定休日(原則、1週に1日以上)に労働させた時間に対し支払います。
休日週2日(土曜日、日曜日)で日曜日を法定休日としている場合
■休日のうち、日曜日だけ労働させた場合
→土曜日に休日が取れていますが、日曜日を法定休日と定めているため、日曜日に労働させた時間数分の休日割増手当の支払いが必要となります。
■休日のうち、土曜日だけ労働させた場合
→会社の休日に労働をさせていますが、法定休日ではないため、休日割増の支払いは不要です。ただし、週40時間を超える場合は時間外割増(125%)の支払いが必要となります。また給与規程で土曜日も含め休日は135%払うとしている場合は、規定に従って支払います。
なお、法定休日は就業規則で特定する義務はありませんが、週休2日の場合に、どちらが休日割増となるか分かりづらいため、通達でも特定することが望ましいとされているように、勤怠集計、給与計算実務の簡便さ、トラブル防止の観点からは、就業規則で法定休日とそうでない休日を明確にして定めておいた方がよいでしょう。
深夜割増
深夜割増は、22時〜翌5時の深夜時間帯の労働に対し支払います。
■始業時刻9時~終業時刻18時(休憩1時間)で23時まで労働させた場合
(基本単価が2,000円)
①時間外割増と深夜割増を分けて計算
・まず、1日8時間超の時間外労働を行っているため、
2,000円×125%×5時間=12,500円
・深夜労働は1時間であり、その分の深夜割増手当の支払いが必要となります。
2,000円×25%×1時間=500円
②時間外割増125%と深夜割増25%を合わせ150%(深夜残業など)として計算
・18時〜22時までの分=2,000円×125%×4時間=10,000円
・時間外割増時間外労働と深夜割増となる時間帯が重なっている部分は150%として計算
22時〜23時までの分=2,000円×150%×1時間=3,000円
■始業時刻が22時〜終業時刻が翌4時(休憩なし)のように、所定労働時間が深夜時間帯に重なっている場合(基本単価2,000円)
深夜割増手当=2,000円×25%×6時間=3,000円
月給制であれば、月給に加えてこの3,000円を支払えば足ります。ところが、深夜割増は125%支払うと記載している給与規程もたまに見かけます。
時給制の場合、給与計算の手間を減らすために、基本給と深夜割増をまとめて、2,000円×125%(基本部分+深夜割増分)=15,000円と計算する場合もあり、このあたりを混同している場合もあります。ただ、深夜割増125%とすると、月給制の場合、所定労働時間数分の賃金は月給でカバーしているため、100%の部分を二重に支払うこととなってしまいます。
端数処理
通達上、労働時間数については、時間外労働・深夜労働・休日労働ごとに1か月の時間数を合計し、それぞれ1時間未満の端数がある場合には、30分未満は切り捨て、30分以上は切り上げることができます。
賃金額については、労基法上、下記のような取り扱いが認められています。
■割増賃金の計算
下記を算出した際に1円未満の端数が出た場合は、50銭未満切り捨て、50銭以上を1円に切り上げすることができます。
➀1時間当たりの賃金額(基本単価)
➁1時間当たりの割増賃金額(割増単価)
➂1か月間の時間外・休日労働・深夜労働について、それぞれの割増賃金額(割増手当)
その他にも下記の取り扱いが可能です。
■1か月の賃金計算
➃1か月の賃金額(賃金の一部を控除して支払う場合には控除した残額)に100円未満の端数が生じた場合
→50円未満の端数を切り捨て、50円以上の端数を100円に切り上げる。
⓹1か月の賃金額に1,000円未満の端数がある場合
→その端数を翌月の賃金支払日に繰り越して支払うこと。
端数処理の取り扱いについては、その旨を給与規程に定めておきましょう。
☞ 残業手当等の端数処理はどうしたらよいか(東京労働局)
>>> 詳しくはこちら
KING OF TIME 情報
今回は、休暇みなし時間の設定方法についてご案内いたします。
休暇みなし時間とは、休暇を取得した際に労働したとみなす時間のことです。KING OF TIMEでは、この休暇みなし時間を労働時間に計上することができます。
◆ 休暇みなし時間の設定方法(休暇区分使用)
◆ フレックスタイム制(コアタイム有)での休暇みなし時間設定方法
◆ 休暇みなし時間設定方法(フレックスタイム制コアタイム有)
休暇みなし時間の設定方法(休暇区分使用)
設定>スケジュール>休暇区分設定>該当区分の[編集]>休暇みなし勤務時間の計算:
[計算を行う]として登録いたします。
※雇用区分ごとに設定する場合は
設定>従業員>雇用区分設定>[編集]>休暇関連カテゴリの[詳細]>休暇みなし時間の設定
☞休暇を取得した際、勤務をしたとみなして労働時間を計上することはできますか?
フレックスタイム制(コアタイム有)での休暇みなし時間設定方法
2021年10月のバージョンアップにて、日の契約労働時間にそった、休暇みなし時間を計上できるようになりました。
これにより、パターン設定のコアタイムとは別に、休暇取得時に労働時間に計上したい1日の標準労働時間を設定できるようになっています。
休暇みなし時間設定方法(フレックスタイム制コアタイム有)
設定>スケジュール>パターン設定>新規>予定>詳細>みなし勤務時間>みなし勤務時間を計上する
こちらの「みなし勤務時間を計上する」に入力している時間が、休暇みなし時間として 計上されます。
コアタイムが11時~16時の場合でも、1日の標準労働時間にそった所定時間を計上することができます。
☞日の契約労働時間にそった休暇みなし時間を計上できるようになりました
本記事が皆様のお役に立てれば幸いです。
今後もKING OF TIMEをご愛顧いただけますよう邁進してまいりますので、何卒よろしくお願いいたします。