監修:社会保険労務士法人 ヒューマンリソースマネージメント
特定社会保険労務士 馬場栄 監修:社会保険労務士法人
ヒューマンリソースマネージメント
特定社会保険労務士 馬場栄
今週のピックアップ
【労務情報】
◆ クラウド勤怠で簡単に設定できる端数処理
◆ 端数処理がキッカケで労務トラブルに発展するケースも
◆ 遅刻してきた場合の端数処理もダメなの?
◆ 認められている端数処理もある。ただし裁判の世界では・・・
◆ 打刻時刻は労働開始時刻?
【KING OF TIME 情報】
◆ 拘束(在社)時間と労働時間の確認方法
◆ カスタムデータ項目の丸め
☞ KING OF TIME 情報は 《 こちら 》
クラウド勤怠で簡単に設定できる端数処理
企業から勤怠管理に関するご相談を受けた際、「出退勤の時間管理は1分単位で行うことが原則」とのご認識はあるものの、実際の管理状況をお聞きすると1日の労働時間を15分や30分単位で丸め処理を行っているケースが少なくありません。
このような勤怠の丸め処理を行うことは問題ないのでしょうか?
労働基準法(第24条)の「賃金全額払いの原則」によれば、労働時間の端数処理を行うことは原則として許されず、労働時間については、労働日ごとに1分単位でカウントすることが必要とされています。
丸め処理を行うことによって、労働時間が実態よりも短くなる運用は違法になる可能性があります。
なお、丸め処理をする際に、端数を切り捨てするのではなく、一律切り上げするのであれば、法律の定めを上回る労働者に有利な取扱いとなりますので問題ありません。
クラウド勤怠では簡単に端数処理に関する設定が出来てしまいます。
しかし、安易にその設定をすることで、トラブルに発展する可能性がありますので注意しましょう。
端数処理がキッカケで労務トラブルに発展するケースも
過去に、某大手飲食チェーンでアルバイト従業員や社員の勤務時間を30分単位で丸めて(切り捨て)計算していたことが判明し、労働基準監督署から是正指導を受けたことが新聞報道されました。この際は、丸め処理が行われた結果労働時間に計上されていなかった差額分の賃金が、過去2年間に遡って支払われたようです。
民法改正(2020年4月施行)に伴い、労働基準法の賃金請求権の時効が3年(当面の間)に変更されました。2023年4月以降の請求については時効3年が適用されますので、上記のようなリスクがないか早めに社内で確認することをお勧めします。
<参考>
☞ 【法改正情報】賃金請求権の時効が、2年から3年に ~ 転ばぬ先の杖にKING OF TIME ~
>>> 詳しくはこちら
遅刻してきた場合の端数処理もダメなの?
前述のとおり、労働時間は1分単位でカウントすることが原則とされており、遅刻してきた場合も同様に1分単位で労働時間を管理し、遅刻時間分は「ノーワーク・ノーペイの原則」により、給与から控除することになります。
一方で、従業員が欠勤を繰り返すなど会社として何らかのペナルティーを科す必要があるようなケースでは、就業規則に遅刻や早退を懲戒処分の対象とすることが明記されていれば、労働基準法(第91条)の制限内で減給(※)することが可能とされています。
(※)1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない。
ただし、懲戒処分としての減給を行う場合は、就業規則に懲戒処分の種別、事由の記載があり、懲戒事由に該当していることが前提となります。また、懲戒処分の内容が、社会通念上相当であることが必要となりますのでご注意ください。
<参考>
☞ 実務に役立つ!労働裁判例シリーズ ~ 問題社員の懲戒処分編 ~
>>> 詳しくはこちら
認められている端数処理もある。ただし裁判の世界では・・
労働時間のカウントは1分単位が原則ですが、割増賃金計算については、事務処理を簡素化するために、行政通達上では以下の端数処理が認められています。
・1か月における時間外労働、休日労働および深夜業の各々の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合に、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げること
・1時間当たりの賃金額および割増賃金額に1円未満の端数が生じた場合、50銭未満の端数を切り捨て、それ以上を1円に切り上げること
・1か月における時間外労働、休日労働、深夜労働の各々の割増賃金の総額に、1円未満の端数が生じた場合、50銭未満の端数は切り捨て、50銭以上の端数は切り上げること。
ここで注意すべきポイントは以下の2点です。
(1)「1か月単位」での時間外労働等の時間数に対して認められている丸め処理であり、「1日単位」で上記丸め処理を行うことは認められていない。
(2)「時間外・休日・深夜の各労働時間の合計」に対して認められており、1か月の総労働時間が法定労働時間内に収まっている場合の端数処理は認められていない。
この他に、1か月の賃金支払額についても、行政通達上では以下の端数処理が認められています。
・1か月の賃金支払い額(賃金の一部を控除して支払う場合には控除した額)に100円未満の端数が生じた場合、50円未満の端数を切り捨て、50円以上の端数を100円に切り上げて支払うこと。
・1か月の賃金支払い額に生じた1000円未満の端数を、翌月の賃金支払日に繰り越して支払うこと。
1か月の賃金支払い額に関する端数処理については、あらかじめ就業規則や賃金規程などに、その旨を記載することが必要です。
なお、上記の端数処理については、事務処理を簡素化するために行政通達上で認められている特例処理となりますので、法律上の原則はあくまで1分単位となります。
行政通達とは、行政内部の命令(例えば国(厚生労働省)から都道府県労働局や労働基準監督署に向けたもの)で、法令の解釈や対応の仕方などを示したものです。企業やそこで働く労働者、そして裁判所に対しては法的な意味で拘束力を与えるものではありません。
よって、もし裁判などのトラブルとなった場合は、裁判所はこの端数処理を認めない可能性がありますのでご注意ください。
打刻時刻は労働開始時刻?
これまで労働時間のカウントは1分単位が原則であることをご説明してきました。
勤怠管理システム等を利用することで、出退勤の管理や分単位の端数があっても労働時間の集計を容易に行うことができますが、出勤打刻=労働開始時刻、退勤打刻=労働終了時刻として取扱うのでしょうか。
労働時間とは、使用者の指揮監督のもとにあり、労働者が時間を自由に利用できない時間のことをいいます。ですので、一般的には、始業開始前早めに出勤打刻してコーヒーなどを飲みながら新聞を読んでいる時間や、業務終了後に退勤しないで同僚と雑談している時間などは労働時間にはカウントされません。
上記のとおり、打刻時間と労働時間は必ずしも一致するものではありませんが、未払い残業代等の労働時間を争うことになった場合は、タイムカードやICカード等の打刻時間から労働時間が推定され、これを否定するためには使用者側に特段の事情の反証が求められています。
こういったリスクを回避するためには出退勤管理をどのように行えば良いでしょうか。
一つには、残業を申告制とし、その日ごとに申告・承認を徹底するという方法が考えられます。
その他にも打刻時間とPCログ等の客観的記録が一致しない場合は、その乖離時間について従業員から理由を聴取し、是正を図るという方法も考えられます。
いずれにしても、従業員の拘束(在社)時間と労働時間を会社が把握し、正しく労働時間の管理を行うことが重要です。
<参考>
☞ 労務専門社労士が提案する【時間管理の重要性】 ~ 改めて考えたい、労働時間と拘束時間の違い ~
>>> 詳しくはこちら
KING OF TIME 情報
今回は拘束時間と労働時間の確認方法、勤怠の丸め処理についてご紹介します。
正しく労働時間を管理するために集計項目をカスタマイズしましょう。
◆ 拘束(在社)時間と労働時間の確認方法
◆ カスタムデータ項目の丸め
拘束(在社)時間と労働時間の確認方法
労務情報でもご案内した通り、拘束(在社)時間と労働時間を会社が把握し、正しく労働時間の管理を行うことが重要です。
カスタムデータ項目設定を利用することにより、タイムカード上で在社時間を確認できます。残業を申請制にしているなど、在社時間と労働時間の記録が必ずしも一致しない可能性がある場合は、カスタムデータ項目設定にて在社時間を作成することをおすすめします。
☞ 在社時間(拘束時間)を算出することはできますか?
また、勤怠確認機能を利用することで、従業員が勤怠確認処理をする際に「打刻に基づく在社時間」と「労働時間+休憩時間」を表示します。
従業員が確認したという実績を残すためにも勤怠確認機能は有効的です。
☞ 従業員自身に自らの勤怠内容に問題がないかを確認させていますか?
カスタムデータ項目の丸め
原則の労働時間カウントは1分単位です。
一方で、事務処理の簡素化を目的に、1か月での『時間外労働』、『休日労働』、『深夜労働』の各々の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合は、30分未満の端数を切り捨て、30分以上の端数を1時間に切り上げることが認められています。
上記のような丸め処理は「カスタムデータ項目」の「特60」を利用することで可能です。
「特60」とは、1時間未満の端数がある場合は、30分未満の端数を切り捨て、30分以上の端数を1時間に切り上げる丸め方法のことです。
月単位の丸めのため、月別データでのみ「特60」がご利用いただけます。
本記事が皆様のお役に立てれば幸いです。
今後もKING OF TIMEをご愛顧いただけますよう邁進してまいりますので、何卒よろしくお願いいたします。