監修:社会保険労務士法人 ヒューマンリソースマネージメント
特定社会保険労務士 馬場栄 監修:社会保険労務士法人
ヒューマンリソースマネージメント
特定社会保険労務士 馬場栄
今週のピックアップ
【労務情報】
◆ みなし出退勤機能が使える場面は限定的
◆ 裁判所も否定的。労働時間の算定が困難な業務とは?
◆ みなし労働時間制で、労働時間管理が逆に煩雑になることも!?
◆ 安易に使えないテレワークのみなし労働時間制
【KING OF TIME 情報】
◆ スマートフォンアプリとは?
◆ Myレコーダーとは?
◆ 携帯ブラウザ打刻とは
☞ KING OF TIME 情報は 《 こちら 》
みなし出退勤機能が使える場面は限定的
営業職などで出張や外回りの際に、会社で打刻が出来る環境にないことから、所定労働時間(例えば8時間など)を働いたことと取り扱うため、KING OF TIMEの「みなし出退勤機能(出退勤打刻がなくても設定した労働時間働いたとみなす機能)」を使っている企業も少なくないかと思います。
このみなし出退勤機能が使える根拠としては、法律に照らし合わせると、「事業場外みなし労働時間制(以下、みなし労働時間制)」の適用を受けることが必要となります。
法律で定めるみなし労働時間制というのは、「事業場外で業務に従事し、使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間の算定が困難な業務」に従事する場合に、実労働時間によるのではなく、所定労働時間や労使協定で定めた労働時間などを働いたとみなすことが出来るというものです。
ただし、厚生労働省で例示されている以下のような場合には、みなし労働時間制は認められないとされています。少し前時代的な例ではありますが、最近の裁判例などでも、みなし労働時間制が認められる例は稀でかなり限定的と言えます。
・何人かのグループで事業場外労働に従事する場合で、そのメンバーの中に労働時間の管理をする者がいる場合
・無線やポケットベル等によって随時使用者の指示を受けながら事業場外で労働している場合
・事業場において、訪問先、帰社時刻等当日の業務の具体的な指示を受けた後、事業場外で指示通りに従事し、その後、事業場に戻る場合
裁判所も否定的。労働時間の算定が困難な業務とは?
昨年(令和3年)に大阪地裁で争われた「営業社員にみなし労働時間制が認められるか」という裁判では、以下の理由からみなし労働時間制は適用されないと判断されました。
[ 争点 ]
会社は、営業社員にノートパソコン及びスマートフォンを貸与していたが、会社からの具体的な指示はなかったとして、みなし労働時間制が適用されると主張。
[ 要旨 ]
・直行直帰をする場合であっても、会社で貸与したスマートフォン等により、顧客のもとに到着し、営業活動を始めた時間や、営業活動を終えた時間を報告させることが十分可能であった。
・また、支店に出勤した場合には、その日の予定を伝えてから直行先に向かい、およその帰社時間を伝えていた。
・業務報告書には、訪問先、訪問日時、次回訪問予定日、打合内容などが書くことになっており、大まかな労働時間を把握することができた。
この裁判では、労働の実態から大まかにでも労働時間が把握できるのであれば、「労働時間の算定が困難とはいえない」と判断されました。
他にも下記のような場合には、みなし労働時間制が認められないと判断されています。
【みなし労働時間制が認められないケース】
・使用者が事前に具体的な指示を行っている(計画表の作成など)
・労働者が事前に業務予定を報告している(予定表の作成など)
・訪問先、訪問・退出時間などについて業務報告書などを提出している
・始業・終業時刻が指定され、事業場外労働の前後に出社している
・タイムカード等によって出勤・退勤時間が把握されている
・携帯電話、電子メール等を用いて、業務指示、業務報告などがされている(可能である)
・業務内容、時間配分などについて、労働者の裁量がない
これらの例を参考に、改めて自社の労働実態と重ね合わせ、みなし労働時間制の適用可否について確認してみましょう。
みなし労働時間制で、労働時間管理が逆に煩雑になることも!?
みなし労働時間制が適用される労働時間の算定には、次の3つの方法があります。
みなし労働時間数については、法定労働時間(1日8時間)を超えて定めることも可能ですが、この場合は、労働基準監督署に届出が必要となります。
① 所定労働時間
② 事業場外労働を遂行するため、通常、所定労働時間を超えて労働することが必要である場合には、その業務に必要とされる時間
③ 上記②の場合であって労使で協定したとき
多くの企業では、①のように、「所定労働時間働いたものとしてみなす」として、就業規則には、次のように規定している企業がほとんどだと思います。
「就業時間の全部または一部について、事業場外で勤務する場合において、就業時間を算定し難いときは、所定の就業時間を勤務したものとみなす」
概ね所定労働時間を逸脱しないような場合は問題ありませんし、労使協定も必要ありません。直行・直帰で勤務する場合や、午前中は、事業場内で勤務し、午後は外回りというようなケースでも、実際の労働時間数とは関係なく、その日については所定労働時間働いたものとみなすことになります。
しかし、実態は長時間労働が常態化しているにもかかわらず、安易に「所定の就業時間を勤務したものとみなす」としている場合、労務トラブルが発生する可能性も否めません。
よって、みなし労働時間数の決め方は慎重に行いましょう。
また、みなし時間を所定労働時間ではなく、上記②、③のように、事業場外労働について、通常その労働に必要とされる時間と定めた場合の労働時間の取り扱いも注意が必要です。
この場合、たとえば、労働時間の一部を事業場内(内勤)で行う場合には、その事業場内で働く時間については労働時間をみなすことは出来ず、別途労働時間を把握しておく必要があります。その上で、別途把握した内勤の労働時間と事業場外での労働に通常必要とされる時間を合算した時間が所定労働時間を超えか超えないかで当該日の労働時間数が変わります。
具体的なケースでご説明します。
例)午前中は、社内で営業資料を作成、午後から外回りにでる営業マン
所定労働時間:7時間30分、休憩時間1時間(12時~13時)
始業時刻:9時、終業時刻:17時30分
通常必要な労働時間:労使協定の定めによる
① 所定労働時間 ≧ 通常必要とされる労働時間 + 事業場内の労働時間
⇒所定労働時間働いたものとみなします。
たとえば、外勤に通常必要な時間を3時間と労使協定で定めていた場合は、内勤の時間4時間と合わせても所定労働時間内であるため、1日の労働時間は、所定労働時間働いたものとみなし、1日の労働時間は7時間30分として取扱います。
② 所定労働時間 < 通常必要とされる労働時間 + 事業場内の労働時間
⇒通常必要とされる労働時間と事業場内の労働時間の合計が労働時間とみなされます。
もし、外勤に通常必要な時間を5時間と労使協定で定めていた場合は、内勤の時間と合わせて9時間となり、「所定労働時間<通常必要とされる労働時間+事業場内の労働時間」となるため、1日の労働時間は9時間としなければなりません。
通常その労働に必要とされる時間は、労使協定で定めていない場合、その業務に必要とされる時間を平均した時間となりますが、業務の実態を踏まえて労使間で協議して決めることが適当と考えられますので、労使協定で定めておくべきでしょう。
安易に使えないテレワークのみなし労働時間制
在宅勤務を認めている企業では、従業員がどのぐらい仕事をしているのか、さぼっているかもしれないので労働の実態が把握できないという悩みを抱えている担当者も少なくないかと思います。
そういった需要が高まった影響からか、厚生労働省のテレワークガイドラインでは、在宅勤務時、次のような場合にみなし労働時間制が認められるとされています。
① 業務が私生活を営む自宅で行われている。
・サテライトオフィスなどでは認められません。
② 情報通信機器が使用者の指示により、常時通信可能な状態におくこととされていない。
・勤務時間中に、労働者が自分の意思で通信回線を切断できる。
・通信の回線切断は認められていないが自由に離席ができ、応答のタイミングが労働者に委ねられている。
③ 業務が随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていない。
・業務の目的、目標、期限などの基本的事項にとどまり、1日のスケジュールをあらかじめ決めるなど、作業量や作業の時期、方法などを具体的に特定していない。
いかがでしょうか。たとえば、従業員にどうしても連絡が必要な時に連絡がつかない、いつまでに連絡してください。という指示も出来ないということになります。通常、このような環境下で働いてもらうことは難しいかと思います。
また、みなし労働時間制は、時間外割増手当の対象とする労働時間についての算定方法について適用される考え方であるため、休憩、休日、深夜業などについては、法律の適用を受けるので、休日割増手当や深夜手当の支払いは労働時間に応じた支払いが必要となります。
今回のブログでは、みなし出退勤機能について取り上げました。
条件を満たせば、KING OF TIMEのみなし出退勤機能を利用いただいても問題はありませんが、過去の裁判例等を参照すると、事業場外みなし労働時間制が認められる場面は非常に限定的ということがご理解いただけたかと思います。
KING OF TIMEでは、アプリなど外出先での打刻も可能です。営業や在宅勤務だからといって、安易にみなし出退勤機能を利用するのではなく、打刻による労働管理をお勧めいたします。
KING OF TIME 情報
上記の労務情報でご案内している「打刻による労働管理」に役立つ打刻方法をご紹介します。
スマートフォンアプリや携帯ブラウザ、PCブラウザで打刻できるため、出張や外回り、在宅勤務などオフィス以外での適切な労働時間の把握が可能です。
◆ スマートフォンアプリとは?
◆ Myレコーダーとは?
◆ 携帯ブラウザ打刻とは
スマートフォンアプリとは?
追加料金なく、iPhoneやAndroidスマートフォンで利用できる個人用のタイムレコーダーアプリです。管理者用アプリと従業員用アプリの2種類があり、セットで利用します。
管理者アプリでは「デバイスのユーザー認証を利用する」をONに設定することで、ご利用端末の認証方法(指紋認証や顔認証など)で打刻が可能となるため、不正打刻防止にお役立ていただけます。
☞ 【スマートフォンアプリ】インストールと初期設定
また、エラー勤務などをアプリのプッシュ通知で確認することができます。 ※KING OF TIME勤怠の「通知設定」とスマートフォン側での「アプリの通知を許可する設定」が必要です。
Myレコーダーとは?
会社貸与のスマートフォンはアプリがダウンロードできないなどの制限を設けている場合もあるかと存じます。
会社のルール上、アプリが利用できない場合は、打刻時の位置情報取得に加え、幅広いOSに対応している「Myレコーダー」がおすすめです。
Myレコーダーとは、PCブラウザ、スマートフォンブラウザで利用できる個人別のタイムレコーダーです。ソフトウェアのインストールは不要で、追加料金もかかりません。
☞【Myレコーダー】タイムレコーダーの特徴
携帯ブラウザ打刻とは?
従業員ごとに発行されたタイムレコーダーURLにアクセスし、打刻できる個人別のタイムレコーダーです。
インターネット回線に契約がある機種であれば利用できます。ただし位置情報機能は、GPS機能あるいは簡易位置情報機能に対応した機種でのみ利用可能です。
☞【携帯ブラウザ打刻】タイムレコーダーの特徴
本記事が皆様のお役に立てれば幸いです。
今後もKING OF TIMEをご愛顧いただけますよう邁進してまいりますので、何卒よろしくお願いいたします。