監修:社会保険労務士法人 ヒューマンリソースマネージメント
特定社会保険労務士 馬場栄 監修:社会保険労務士法人
ヒューマンリソースマネージメント
特定社会保険労務士 馬場栄
今週のピックアップ
【労務情報】
◆ 諸手当はどんな手当を支給しないといけないものなの?
◆ 欠勤控除の際に手当も含めて減額しても問題はないか
◆ 年次有給休暇を取得した場合に皆勤手当を払わないことは違法?
◆ 不正受給していた手当を給料と相殺する場合の注意点とは
◆ 諸手当の見直しをするために押さえておくべきポイント
◆ 手当の見直しは同一労働・同一賃金問題を見直すチャンスでもある
◆ 諸手当の統廃合による手当削減の具体的な方法とは
【KING OF TIME 情報】
◆ 年5日有休取得義務の設定方法
◆ 従業員に年5日有休取得を促す方法
◆ 有休休暇管理簿の出力方法
☞ KING OF TIME 情報は 《 こちら 》
諸手当ってどんな手当を支給しないといけないものなの?
各会社において、どのような手当を支給するかは自由です。会社によっては、福利厚生の一環として生活費保障的な手当として住宅手当や家族手当を支給したり、職務に関連する手当として営業手当や歩合給などを支給する会社もあるかと思います。
直近の厚生労働省の調査でも通勤手当や役職手当はもちろん、生活保障的な住宅手当や家族手当、技能手当などは、支給している企業の割合が高くなっています。
出典:令和2年度就労条件総合調査(厚生労働省HP)
手当を支給するかどうかはあくまでも会社の任意によるものですが、手当=賃金ですから、支給している場合には、取り扱いに注意が必要なポイントがあります。
そこで今回のブログでは、トラブル回避の観点からいくつか取扱いに注意が必要なケースをご紹介します。
欠勤控除の際に手当も含めて減額しても問題はないか
ノーワークノーペイの原則から労働していない時間に対して賃金を支払う必要はありません。
ただ、ここでいう賃金に具体的な労働と関係のない手当、例えば、生活保障的な住宅手当や家族手当が含まれるのかと疑問をお持ちの方もいらっしゃるかと思います。
労働基準法上、割増賃金を支払う場合に含まれる手当の考え方※は示されていますが、欠勤した場合の賃金控除についてどこまでの範囲が認められるかなど、具体的な定めはありません。
過去の裁判例をみると、どの範囲までの手当を控除するかは、就業規則等に定められていれば、その内容に従って控除することは認められると判断しています。そのため、生活保障的な住宅手当や家族手当は欠勤した場合にも差し引かないと定めることも可能ですし、その逆もしかりということになります。
上記の通り、欠勤控除のルールは就業規則に記載する必要があります。一方で、実際の給与計算の方法が、就業規則に記載されているルール通りとなっていないケースも散見されます。これは、特に手当を追加・変更・廃止した際に起こりやすい事象です。これを機会に、就業規則と実際の運用に差が生じていないかチェックすることをお勧めいたします。
なお、欠勤した場合に就業規則等に控除する旨の記載があったとしても、過去にそのような実態がなく、控除しないことが慣習化しているような場合は、欠勤控除することが認められない可能性があるため注意が必要です。
※割増賃金を支払う場合に含まれる手当の考え方については、過去のブログもご参照ください。
☞ その割増時間集計・割増計算方法は合っていますか?
~未払い賃金、チリも積もれば山となる!?給与規程も丁寧に確認しましょう~
年次有給休暇を取得した場合に皆勤手当を払わないことは違法?
労働基準法では、年次有給休暇を取得した従業員に対して、賃金の減額、その他不利益な取扱いをしてはならないとされています。ただし、このルールは会社の努力義務を定めたものであって、罰則はありません。
一方で、行政通達において、年次有給休暇を欠勤したものとして取扱い、年次有給休暇の取得を抑制する不利益な取扱いというようなことはしてはならないとされており、また、皆勤手当の減額の程度によっては、民事上無効となる場合もあるとされています。
では、どのようなケースであれば、民事上無効とならないでしょうか。
過去の裁判例をみてみると、年次有給休暇の取得日1日で手当を半額とし、2日取得した場合は不支給としたケースでは無効ではないと判断されています。ただし、この裁判では、運送事業の特殊性、控除額が小さいことなども加味されているため、同様の運用が必ずしも同じ判断とされるかはわかりません。
また、前述の通り、法律上は不利益な取扱いはしてはならないと明記されていることから、有給休暇取得者に対して、賞与の計算上で欠勤と同様の扱いとしたり、昇給の対象外とするような取扱いは無効と判断されている裁判例もありますので、不利益取扱いの程度を慎重に判断する必要があります。
不正受給していた手当を給料と相殺する場合の注意点とは
労働基準法上、賃金はその全額を支払わなければならないとされていますので、税金の控除や労使協定がある場合など、例外的な場合にのみ賃金からの天引きが認められています。そのため、不正受給と言っても賃金から天引きする場合には、下記のようなケースに限られます。
(1)従業員の経済生活の安定を脅かすおそれがない場合
裁判例では、賃金から天引きする場合には、その時期、方法金額などから見て従業員の経済生活の安定を脅かすおそれのない場合に限り、例外的に認められると判断しています。
そのため、不正受給額が多額におよぶ場合には、分割して天引きするなど配慮する必要があります。
(2)従業員の同意がある場合
会社が一方的に天引きする場合には、前述の通りその方法に注意が必要ですが、従業員の同意があれば天引きすることは問題ありません。
ただし、この従業員の同意については、厳格に判断されるため、署名のある念書や清算手続の書類などを取得するようにしておくようにしましょう。
諸手当の見直しをするために押さえておくべきポイント
成果主義に基づく給与体系にするため、これまでの支給していた生活関連手当(住宅手当、家族手当など)を廃止して、諸手当の見直しをする会社も増えてきています。手当の統廃合をする場合、賃金の減額やこれまで支給されていた項目の統廃合により、従業員に不利益な変更を伴うケースもあります。
また、会社として総人件費は変わらないものの、成果に基づいてメリハリのある給与体系へ変更するため、従業員によって有利・不利な変更となるケースもあります。
会社が任意で定めている手当であっても賃金であることは変わりがないので、会社側が一方的に廃止することは問題があります。
そのため、そのような場合、従業員に理解してもらうことが最重要であり、具体的には、以下の手順で進めることをお勧めします。
手当の見直しは同一労働・同一賃金問題を見直すチャンスでもある
手当の見直しの際に、もう1点考慮していただきたいのは、パートやアルバイトとの同一労働・同一賃金の点です。
もし、現在、手当に関して処遇差が発生しているのであれば、改めてその処遇差が妥当かどうかを見直すチャンスでもあります。
同一労働・同一賃金の考え方は、下記ガイドラインにもありますように、その手当の支給目的と職務内容などを加味して、差を設けることが妥当かどうかが判断されます。
たとえば、これまで正社員のみに支給していた皆勤手当を廃止して、特殊業務に従事する業務に新たに手当を新設するような場合、パートやアルバイトが同様の業務に従事しているのであれば、正社員のみを支給対象とする場合は、不合理と判断される可能性があるでしょう。
手当の見直しを行う際には「この手当は何のために支給するものなのか」と手当の目的を深掘りするため、改めて処遇差について見直すきっかけにもなります。
出典:同一労働・同一賃金ガイドラインリーフレットより一部抜粋(厚生労働省HP)
同一労働・同一賃金については、過去のブログもご参照ください。
☞ 実務に役立つ!労働裁判例シリーズ~同一労働・同一賃金編~
諸手当の統廃合による手当削減の具体的な方法とは
諸手当の統廃合による手当削減の方法としては、単純に手当自体を廃止するという方法もありますが、賃金の低下を招くことになりますので、従業員への影響度合いも考え、様々な方法を検討する必要があります。
一般的な手法として下記4パターンをご紹介します。
(1)基本給に組み入れる方法
ケース①:廃止・削減する手当をそのまま個々の従業員の基本給に組み入れる。
廃止される手当による不利益はないものの、廃止される手当の対象となっていなかった従業員への配慮が必要
ケース②:廃止・削減する手当の総原資を従業員数で割って、その金額を個々の従業員の基本給に割り当てる。
手当の対象者だった従業員は金額が目減りする可能性があるが、全社的な平等を重視した方法といえます。
(2)賞与に組み入れる方法
ケース③:賞与に組み入れて旧手当を廃止。賞与額でその削減分をカバーすることを説明で示す。
従業員側からすると実際に加算されているのかどうかがわかりづらい。
ケース④:賞与に組み入れて旧手当を廃止。賞与額でその削減分を新たな支給項目として設ける。
実際に支給する項目により明確になり、従業員にもわかりやすい。
このほかケース③④に共通している注意点としては、月々の給与は減額となるため、不利益変更の問題は生じる点です。また、手当廃止の目的が業績や個人の成果との連動であるのであれば、賞与の中に生活関連手当が残ることは望ましいとは言えないため、調整手当扱いとして、段階的に廃止することも検討すべきでしょう。
諸手当については、人材確保の点から福利厚生の一環として生活関連手当を手厚くしたい、成果に基づいたメリハリのある手当を設けたいなど、会社によって考え方は様々です。
従業員の意識も多様化する昨今、現在支給している手当が人材確保、生産性向上に繋がっているのか改めて検討してみてはいかがでしょうか。
KING OF TIME 情報
今回は「年5日有休取得義務」の設定についてご紹介いたします。
「年5日有休取得義務」は、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、年5日間は使用者が時季を指定して取得させる義務のことを指します。
◆ 年5日有休取得義務の設定方法
◆ 従業員に年5日有休取得を促す方法
◆ 有休休暇管理簿の出力方法
年5日有休取得義務の確認方法
KING OF TIMEでは、有休取得義務期間終了日の「何日前」に警告するか設定します。
警告日までに定められた日数を取得しきっていない従業員は、管理者画面の「対応が必要な処理」にアラート表示されます。
☞「年5日有休取得義務」機能の詳しい仕様はどうなっていますか?
従業員に年5日有休取得を促す方法
年5日の有休取得義務を果たしていない従業員へメール通知することが可能です。
〈設定方法〉
設定 > その他 > 通知設定 > 「年5日有休取得義務通知」タブをクリック >「通知タイミング設定」と「対象選択」を設定
上記設定により、「年5日有休取得義務」の日数を取得できていない従業員へ期間終了日前に最大3回の通知が可能ですので、取得を促進することができます。
☞「有休年5日以上取得義務」の取得日数を満たしていない場合にメール通知できますか?
「年次有給休暇管理簿」の出力方法
年5日有休取得義務に併せて、「年次有給休暇管理簿」の作成および3年間の保存が義務づけられています。 従業員ごとに「年次有給休暇管理簿」を出力することで、確認・保管が可能です。
☞「有給休暇管理簿」を出力できますか?
本記事が皆様のお役に立てれば幸いです。
今後もKING OF TIMEをご愛顧いただけますよう邁進してまいりますので、何卒よろしくお願いいたします。