監修:社会保険労務士法人 ヒューマンリソースマネージメント
特定社会保険労務士 馬場栄 監修:社会保険労務士法人
ヒューマンリソースマネージメント
特定社会保険労務士 馬場栄
今週のピックアップ
【労務情報】
◆ なぜ今人的資本経営なのか
◆「人材版伊藤レポート」に見る人的資本経営の考え方
◆ 人的資本情報を開示することの重要性
◆「学歴」よりも「学習歴」
【KING OF TIME 情報】
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なぜ今人的資本経営なのか
骨太の方針2022(経済財政運営と改革の基本方針)の中で、政府は主にDX人材への育成として、4000億円の予算を投じて人的資本への投資を打ち出しました。
また、2023年3月期決算からは、上場企業約4000社を対象に有価証券報告書での人的資本を含む非財務情報の開示が義務付けられました。
そのような背景もあってか、「DX人材育成」や「リスキリング」、「人的資本情報の開示」といったキーワードを目にする機会も増えてきており、上場企業を中心に人的資本への関心が高まってきています。
「人的資本経営」とはどのようなものかご存じでしょうか。
これまで人材へかける費用はコストと捉えられてきました。企業にとって人材は資源(リソース)であり、企業は利益をあげるために、人件費の削減や抑制を行うことが必要と考えられてきました。
一方で、人的資本経営の考え方では、人材にかける費用を投資として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげることが出来るとされています。工場設備などの物的資本と同様、投資を行うことで人的資本(キャピタル)は拡大し、リターンを生むという考えです。
人的資本経営の政策は、基本的には上場企業や大企業に向けた政策と考えられますが、中小企業にとって関係がないかというと、そのようなことはないでしょう。
今後、労働力人口の減少から人材確保がますます難しくなっていくことは間違いありません。そのような時に、人材への投資を戦略的に行うことで社員の定着を図ったり、開示義務はないものの中小企業においても、自社の優れた人的資本の情報を開示していくことで採用強化につながることなどが考えられます。
今回は、「人的資本経営」をテーマに取上げ、その概要を解説いたします。
「人材版伊藤レポート」に見る人的資本経営の考え方
仕事に求められる能力が年々変化しており、新たな知識やスキルを習得する「リスキリング」に注目が集まっていますが、諸外国に比べて日本企業は人材への投資が不足しているといわれています。先行研究によると、人的投資と生産性はおおむね正の相関関係があるとされており、従業員が新たな知識やスキルを習得することで、エンゲージメントや生産性が向上し、付加価値が増大すると考えられています。
2022年5月に経済産業省の「人的資本経営の実現に向けた検討会」(一橋大学の伊藤邦雄氏を座長とした検討会)の報告書として、人的資本経営に具体的に取り組むためのアイデアが盛り込まれた「人材版伊藤レポート2.0」 がとりまとめられました。
同レポートにおいて、日本のこれまでの人的資本マネジメントをどのように変革していくべきか、その方向性が示されました。
また、企業が策定・実行する人材戦略について、3つの視点(Perspectives)、5つの共通要素(Common Factors)が、3P・5Fモデルとして整理されました。
このレポートにおいて、人的資本経営を実践するための重要なステップとして、以下のようなポイントが示されています。
・何よりも「経営戦略と人材戦略の連動」をさせることが最も重要。
・そのためには体制の整備が必要であり、経営陣の一員として人材戦略の策定と実行を担う責任者を設置すること。
・経営戦略実現の障害となる人材面の課題を整理し、全社的経営課題を抽出すること。
・抽出された経営課題に基づき、自社の実状に応じて優先順位を付け、KPIを設定し、改善を重ねていくこと。
参考:経済産業省
☞「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書 ~人材版伊藤レポート2.0~」
人的資本情報を開示することの重要性
企業への投資を判断する基準として、人的資本等の無形資産が重視されるようになってきており、企業に対しては外部に対する人的資本の情報開示が求められています。
上場企業は、金融商品取引法や会社法などの法律により、企業経営に関する情報を開示することが定められていますが、前述のとおり、2023年3月期決算以降は、有価証券報告書に非財務情報として、「男女間賃金格差」、「女性管理職比率」、「男性育児休業取得率」の開示が義務化されました。
また、これらの人的資本情報は、有価証券報告書への開示以外にも、改正された女性活躍推進法や育児・介護休業法等に基づき開示が定められています。
現在は一定規模の企業が開示義務の対象となっていますが、開示義務の対象となっていない中小企業においても、ブランディングや採用活動を強化する目的などで、自社のホームページ等において積極的に開示する動きもあるようです。
有価証券報告書への開示義務以外にも、人的資本の情報開示について、企業が行うべき対応の内容を包括的に網羅した「人的資本可視化指針」が内閣官房より示されています。この指針では、「人材育成」や「エンゲージメント」などの情報開示が望ましいとされる7分野19項目の開示指針が公表されました。
人的資本情報の開示が目的化してはいけないともいわれていますが、人的資本経営の第一歩としては、働く環境や人事情報を可視化することが重要ではないでしょうか。人的資本が組織の成長にどのように影響しているのかを客観的に把握し、自社の経営課題に応じた目標を設定して、その数値の改善を図っていくことで、企業価値が向上していくものと考えられます。
参考:非財務情報可視化研究会
☞『人的資本可視化指針』
「学歴」よりも「学習歴」
中長期的な視点での人材への投資や多様な働き方の推進は、社会的にも求められており、人的資本経営という考え方は、今後ますます注目されていくと考えられます。
これまで見てきたように人的資本経営の考え方自体は、決して目新しいものではありませんし、この考え方自体を否定する経営者はほとんどいないでしょう。
一方で、大手企業による人的資本経営の実践事例集が経済産業省から紹介されていますが、いざそれを自社で具体的に実践しようとすると、判断に迷ってしまう企業も多いと思われます。
人的資本経営の取組みを開始するためには、まずできることから始めてみるスモールスタートが大切です。前述のとおり、本来考え方自体はシンプルで、人材育成やダイバーシティなどの重要と考えられる人的資本情報を可視化して、自社の実情に応じて課題を設定し、その改善を重ねていくことで企業価値の向上を図っていくことが人的資本経営の基本といえます。
そのためには、何よりも人的資本の情報を可視化することが重要であり、定量的に把握する手段として、異動や研修受講状況を把握するためのタレントマネジメントシステムや、働く環境・生産性を分析するための勤怠管理システムなどのHRテクノロジーを活用するという方法なども考えられます。
また、これまでの日本企業はメンバーシップ型の雇用が主流であり、企業としても採用にあたっては、「学歴」を重視しポテンシャルで採用することが一般的でした。しかしこれからは、人材の流動化が進み、ジョブ型の雇用が増加していくことが予想されています。その時に重要になるのが、どんな知識やスキルを習得してきて、何ができるのかといった「学習歴」であり、企業としても、その職種に求める必要なスキルを言語化したジョブ・ディスクリプション(職務記述書)の作成が必須になるでしょう。
人的資本経営を推進することで、自社に必要なスキルやそのスキルを持った人材がどれくらい不足しているのかが整理され、経営戦略と一致した人材育成や採用活動が実現するものと考えられます。
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