今週のピックアップ
◆ 税制改正の基本的な流れ
◆ 定額減税
◆ 年金受給者や個人事業主は?
◆ そもそも定額減税の対象者は?
税制改正の基本的な流れ
税理士法人総合経営サービスの植松です。
税金関係の法律の改正の流れについて、税理士会の活動も含めてお話いたします。
税務に限りませんが、各士業関連の法律は毎年のように改正があります。毎年3月ごろに各地の税理士会が翌年どんなふうに税制を変えて欲しいかをまとめ、意見書として税理士会連合会に提出します。連合会はそれを6月ごろまとめ、7月に財務省、国税庁、総務省などに建議書として提出します。
政府与党がこれらの税制改正要望などを審議し、「与党税制改正大綱」として取りまとめられ、閣議に提出します。こちらが閣議決定されると「税制改正の大綱」として毎年12月に公表されます。
そして、その「税制改正の大綱」に沿って、国税は財務省、地方税は総務省が改正法案を作成して、国会に提出されます。国会に提出された法案は、審議され、成立したり廃案になったりしますが、可決成立するとその法案に定められた日から税法が変わることになります。
法人税関連はだいたいその年か翌年の4月から変わることが多いですが、個人所得税関連は、翌年1月からの変更が多いです。
ただし、例外もあります。
20年くらい前に「個人不動産の譲渡損失」が給与所得などの他の所得から控除できなくなったのですが、これがその年1月からの改正でした。
そのため12月に大綱が発表されてから、駆け込みで不動産譲渡を実施するのに1か月もなかったので、すぐに改正見込とその影響について説明などの対応が必要となるなど、対応期間が短いうえに、年末調整の時期にも重なり大変でした。
その他にも大変なことといえば、「通達の解釈の変更」があります。
過去に、法人で加入した保険を個人へ名義変更した後、個人で解約した場合の取り扱いに関して、解釈の変更で大問題になりました。
まず、税務における通達とは、簡単に言えば「税法における条文の解釈をこんな風にしてください」ということをまとめたものです。
これは行政機関が出すもので、法律ではないため従う義務はないのですが、その通達に従って処理しているのであれば、まず税務調査で問題になることはないというものです。
前述の過去の例では、税務署窓口でも国税相談センターでもその解約のケースは税金がかかりませんと言っていたものが、突如法人で支払った保険料分は解約時控除ができなくなったので、納税が必要となってしまいました。
この時は納税者や我々の反発は大きく、裁判も辞さないといった方も出るほどでしたが、最終的にはほとんどの納税者の皆様が納税して終わりました。
こうしたケースと比べると、今年の税制大綱の内容を確認した際に、あまり大きな改正はないなというのが個人的な感想です。
その中で目玉的扱いが「定額減税」ですので、次はその「定額減税」について説明したいと思います。
定額減税
令和6年の税制改正のなかでいうと、ニュースなどで一番大きく報道されているのが「定額減税」だと思います。
簡単にいうと「今年の税金から家族一人につき所得税を3万円、住民税を1万円控除します」というものです。
自分と奥様、お子様が2人の対象者が計4名であれば所得税12万円、住民税4万円が控除されることになります。サラリーマンの方々は、6月以降に支給される給与や賞与から「定額減税」が始まります。
給与を受ける側の方々は、6月以降の給与・賞与(以下、「給与」とする)明細を確認していただくと、普通であれば「源泉所得税」という欄に5千円とか1万円とか控除額の記載があるはずですが、6月以降はこれらの合計が3万円になるまで控除がなくなります。つまりその分、皆様の手取り額が増えることになります。これが「定額減税」です。
これだけ見ると簡単に思えますが、給与を支払う側(担当者)の方々は大変だと思います。
例えば、1回の給与の支払いで3万円全額を控除できるのは月額60万円ほどの給与の方だけですし、従業員一人ひとりご家族の数(控除額)も違います。
すなわち従業員一人ひとりについて、まず控除額がいくらか計算し、6月以降の毎月の給与の支払いの中の源泉所得税を積み上げていき、各自の控除額に達するまで控除する必要があります。
従業員が少なければまだしも、何百人もいる企業では管理の負担がとても大きくなることが想像されます。
もう少し突っ込んで話しますと、所得税が控除される「扶養家族」と定額減税の対象となる「扶養家族」には違いがあります。
所得税では基本的に16歳未満の扶養家族は控除対象になりませんが、「定額減税」については対象になります。そのため6月1日現在の扶養家族を再確認する必要があります。
6月1日現在で定額減税の対象者が本人を含めて4名であれば、12万円に到達するまで給与から所得税は控除されないことになりますが、6月1日以降お子様が生まれるなどで扶養家族が増えた場合や、逆にお子様が就職したりして扶養家族が減少した場合にはどうなるのでしょうか。
その場合には、給与からの控除額を3万円増やしたり減らしたりするのではなく、12月の年末調整で考慮されることになります。
その他住宅ローン控除があるなど、定額減税を控除しきれない方、所得が少なくて定額減税を満額控除できない方たちはどうなるのでしょうか。
これらの方々も年末調整で対応されます。
年末調整後、皆様に渡される「源泉徴収票」に「定額減税」のうち控除しきれなかった金額を「控除外額〇〇円」と記載することになっています。
ケースによって取り扱いもさまざまであり、この対応をアナログな方法で管理や計算などを行うとなるとかなり煩雑になります。ただ、給与ソフトのメーカー各社のうち、相当数の給与ソフトがシステム的に対応するようです。
年金受給者や個人事業主は?
それでは年金受給者や個人事業主の方々はどうなるのでしょうか。
まず年金受給者については、給与と同様に源泉徴収税額から控除されます。
こちらも一人3万円に達するまで控除されていきます。
そして個人事業主については、予定納税がある方と無い方で違います。
結論として個人事業主は予定納税がある方のみ、年2回の予定納税から順次控除されますが、何もしなければ本人分3万円のみで控除が終了します。
例えば本人以外にも家族分を控除してもらいたい場合には、予定納税額の減額申請をする必要があります。この減額申請の手続きは7月31日までにする必要があります。
ただ、いずれにしても確定申告をしなければいけない方々なので、減額申請までして家族分の定額減税を受ける方は少ない気がします。
予定納税が無い方はシンプルで確定申告の際に定額減税を受けることになります。それから個人事業主でも原稿料など報酬源泉が控除されている方々については、報酬源泉からは定額減税の控除はしないことになっています。
年金受給者の中にはまだ働いていて給与所得もあるという方もいると思います。
また、年金受給者や給与所得者で不動産所得があったり、副業をしていて事業所得があり予定納税される方は、定額減税はどのように調整されるのでしょうか。
結論を先に言うと「確定申告」で調整されます。
給与所得、年金所得、個人事業主の予定納税は、すべて定額減税が「強制適用」となります。
「確定申告するから、予定納税からは控除しないでください」というのはできません。給与から控除されているから予定納税で控除しないというのもないです。給与と予定納税がある方は、どちらからも控除されます。その調整は確定申告で行います。
そもそも定額減税の対象者は?
定額減税は誰でも受けられるのでしょうか。
答えはノーです。
令和6年の所得が1,805万円超の方は対象外です。
でも、給与からも年金からも予定納税からも3万円いったん控除されます。それで「控除しすぎたから確定申告で納税してください」となります。
令和6年の所得はまだ確定していないので、必ず納税になるわけではありませんが、給与所得と不動産所得の方などは大きく変動しないことも多いので、二重控除になったら来年3月に納税になる方が多いと思います。
さて、1,805万円超の所得の方(Aさん)は、扶養親族を含めて定額減税が受けられません。でも仮に、その方の配偶者(Bさん)の所得が48万円超1,805万円以下であった場合に、16歳未満のお子様(障害者を除く)がいらっしゃる場合にはどうでしょうか。
そのお子様はどちらの扶養になっているかで定額減税が受けられるか受けられないか変わってきます。
Aさんの扶養親族だと対象外ですが、Bさんの扶養親族だと定額減税の対象です。
16歳未満のお子様は、所得税の控除対象ではないため、Aさんの扶養でもBさんの扶養でも所得税額に影響はありません。通常であればどちらの扶養でも問題ないのですが、今年に限ってはBさんの扶養にした方が良いということになります。
本当に良いのだろうかと思い、念のため所得税定額減税コールセンターに確認しましたが、本人が1,805万円超の所得の場合、扶養家族を含めて定額減税の対象外、配偶者が対象になるのであれば扶養家族も対象という回答でした。
(※令和6年5月時点での解釈ではこれで問題なさそうですが、来年の確定申告時に解釈の変更がないことを祈ります。)
6月1日までに会社に扶養の届出を出し直すのが間に合わない場合、年末調整までに提出すれば年末調整で調整されます。それも忘れた場合は、確定申告をするという方法もあります。
なお、所得税の扶養と社会保険の扶養は違っていても条件を満たしていれば問題ないので、社会保険の扶養を変えてお子様の保険証を発行しなおす必要もありません。(こちらも年金事務所に確認済です。)
16歳以上のお子様や障害者の方は、所得税の控除対象なので、Aさんの扶養の方が世帯の所得税額が少なくなるはずです。
ただ、実施される場合には念のため税理士等の専門家に相談してください。
最後に所得が少ない方のケースに触れておきたいと思います。
令和5年の所得状況を皆様がお住まいの各自治体は把握しております。そのため各自治体が定額減税の控除上限まで控除できそうにないと判断した場合、今月5月に対象者に用紙を送ってくるようです。
そちらに回答すると今年の所得見込額から計算した税額がその方の定額減税の額に満たない場合、調整給付をするそうです。こちらは各自治体によって給付時期が異なりますが、早くて8月くらいからになる見込みです。
ちなみに令和6年の所得がその見込みまでいかず、給付額に不足がある場合には、令和7年に追加給付となります。
では過大に給付してしまった場合には、どうなるのでしょうか。
これはどこにも記載がないので令和6年5月時点ではわからない状況です。
そして、住民税の課税が無い世帯の場合、7万円の給付(すでに3万円は支払い済)、所得税が非課税の世帯は10万円の給付となります。
こちらも各自治体が計算・給付という流れとなりますので、詳細は割愛させていただきます。
今年限りの制度ながら、ここに記載したこと以外にもいろいろと注意しなければならないことがありますので、対応には気をつけましょう。
※公開後に下記、修正しております。
【修正日時】2024年5月28日 PM1:31
【修正箇所】そもそも定額減税の対象者は?
本当に良いのだろうかと思い、念のため所得税定額減税コールセンターに確認しましたが、本人が1,805万円超の所得の場合、扶養家族を含めて定額減税の対象外、配偶者が対象になるのであれば扶養家族も対象という回答でした。
修正前)扶養家族を含めて定額減税の対象
修正後)扶養家族を含めて定額減税の対象外
監修者紹介
税理士法人総合経営サービス 植松 伸
下町生まれの税理士の植松伸です。
税理士になる前は建設系の労働組合で働いていたので、建設業等の許認可や健康保険事務組合の知識もあり、それらの業務を弊社グループ内へつなぐことも大事にしています。
趣味は観賞魚飼育で、現在自宅に水槽が10個あります。
魚を眺めたり、水の音はとてもリラックスできるのですが、水槽の掃除等のメンテナンスに時間がかかるので、ちょっと増やしすぎたと反省する毎日です。
本記事が皆様のお役に立てれば幸いです。
今後もKING OF TIMEをご愛顧いただけますよう邁進してまいりますので、何卒よろしくお願いいたします。