今週のピックアップ
◆ 住民税の計算
◆ 住民税の申告
◆ 住民税の納付
◆ 入社や退社があった場合の特別徴収は?
住民税の計算
税理士法人総合経営サービスの植松です。
今回は個人の住民税についてです。
皆様の中にはご自身で確定申告をされていて、個人の所得税を計算したことがある方もいらっしゃると思います。
ただ、今年の所得税の納付額や還付額がいくらと計算しても、今年納付する住民税額がいくらか計算し、確認している方は少ないのではないでしょうか。
我々税理士も所得税額は計算しても、住民税額を計算することはあまりありません。
例外的に不動産の譲渡によって大きく納税がある際に、”所得税の後で住民税がいくらくらいかかるので、お金を取っておいてください”ということがあるくらいだと思います。
では住民税はどのように計算されているのでしょうか。実は、所得税とほとんど同じ計算です。
給与から給与所得控除額を控除したり、不動産収入から経費を控除するなどは同じです。
そこから先がちょっと違い、基礎控除額や扶養控除額等の人にかかる控除額や、生命保険や地震保険の控除額が異なってきます。
例えば、基礎控除額は所得税が48万円なのに対し、住民税は43万円。生命保険料控除の所得税の上限は12万円ですが、住民税は7万円です。社会保険料や医療費の控除額等は同じ計算方法です。このように所得税より少し控除額が減ることになります。
これらの控除額を引いた残りの金額が「課税所得金額」となり、住民税はこの課税所得金額の10%となります。
所得税は5%から45%まで課税所得金額に応じて段階的に計算されます(これを「累進課税」という)が、住民税は一律で10%です。
例外として前述した不動産等の譲渡所得にかかる住民税等があり、不動産の所有期間が短いものは9%、長いものは5%の住民税がかかります。
この住民税の課税所得金額が、国民健康保険料の計算のベースになっていることが多いのですが、個人事業主の方から国民健康保険料がいくらになるか、と聞かれることがあります。
しかし、前述のように控除の額が異なるので、住民税の課税所得金額がすぐには出ないためざっくりとした金額をお伝えすることになります。
住民税の申告
次に住民税の申告についてですが、こちらも意識して今年の住民税の申告をしたぞという方は少ないと思います。
住民税の申告は大きく分けて2種類あります。「給与所得のみの方」と「確定申告する方」です。
「給与所得のみの方」は勤務している事業者が毎年1月に皆様がお住いの自治体に、給与支払報告書を提出して完了です。
そのため皆様が正しく年末調整をする際に資料を提出していれば、ご自身で何かする必要はありません。
次に「確定申告される方」ですが、こちらは確定申告書を提出するとその情報が自動的に各自治体に送信されるので、確定申告さえすれば特に何かする必要はありません。申告はシンプルでいいですね。
例外としては、400万円以下の年金収入で他の所得が無い、又は年金以外の所得が20万円以下の方の二つがあります。
この場合、所得税の確定申告義務は無いのですが、住民税の申告義務はあるので、住民税だけ市区町村に申告する必要があります。おおむね年金の源泉徴収票から転記すればよい簡単なものです。
ふるさと納税のワンストップ特例にも触れておきます。給与所得者で本来、年末調整のみで完結する方の場合、1年間のふるさと納税先が5自治体以下であれば、翌年1月の期限までにワンストップ特例申請をすれば、寄付金控除の申告が完了し、住民税からふるさと納税による控除を受けることができます。
還付はされないので、実感が薄いですがこれから支払う住民税額が減るので効果は全く同じです。
このように個人の住民税は、計算も申告もあまり意識して行っているという感覚が、皆様も税理士も薄いことがわかると思います。
住民税の納付
次は納付についてです。
納付方法は2種類で、「普通徴収」と「特別徴収」があります。
普通徴収は、基本的に給与所得が無い方が対象で、年間の税額を4回(6月、8月、10月、翌年1月)に分けて自分で支払います。
特別徴収は、所得税の源泉徴収と同じように毎月の給与から控除され、給与支払月の翌月10日までに勤務先が支払います。毎月控除されますので、12回払いです。
納付もシンプルなのですが、今年令和6年に限ってはちょっと違います。以前お話しした「定額減税」があるためです。
普通徴収の方は最初の6月支払い分から1人1万円の減税額が控除され、控除しきれなければ次の8月支払い分から順次控除されます。
特別徴収の方は、今年は基本的に6月には住民税の控除が無く、7月以降11か月で納付していくことになります。
ただここでまた面倒なのが、所得が1,805万円以上と見込まれる方の場合、「定額減税」の対象にならないので、6月から控除があり、例年通り12回払いです。
もうひとつのケースとして住民税の納付が均等割の5,000円のみの方も6月に控除があります。
こちらのケースは、5,000円という金額のためか6月に5,000円全額を控除し、7月以降は控除がありません。
ちなみにこのケースは今年の特例ではなく、例年も同じルールです。
給与計算を担当している皆様は、6月は0だからと油断せず例外もあることに注意して、徴収漏れや納付漏れで自治体から督促状が来ないようにしてください。
今年だけの定額減税のためにシステム変更をしなければなりませんから、給与計算担当者も大変ですが、自治体の皆様も大変なようです。その大変さに追い打ちをかけるかのように、給与明細に定額減税を明記するような義務化が発表されました。
さすがに6月の給与明細に記載が反映されなくても、罰則の適用は無いと国会の答弁でありました。
しかし、定額減税そのものを実施しない場合には、国税庁は「税法上の罰則は無い」としながらも、厚生労働省が労働基準法に違反するので「30万円以下の罰金」が課される可能性があると発表しています。
入社や退社があった場合の特別徴収は?
最後に入退社があった場合の特別徴収についてお話しします。
先ず “入社の場合” ですが、3パターンに分かれます。
① 新卒等、昨年所得が無く、そもそも住民税が無い方
こちらは当然何も手続きする必要がありません。来年から特別徴収になります。
② 昨年所得があり、普通徴収で納税している方
こちらは、その入社された従業員から普通徴収の通知書や納付書を提出してもらい、納付がどこまで終わっているか確認の上、「特別徴収切替届出(依頼)書」と未納分の納付書をその従業員がお住いの自治体に提出します。
その後、特別徴収の通知書と納付書が届きます。
③ 転職等により特別徴収を引き継ぐ方
退職時に次の勤務先が決まっている場合は、前の勤務先から「給与支払報告(特別徴収)に係る給与所得者異動届出書」に必要事項を記入してもらい、受け取ります。それを次の勤務先に提出します。次の勤務先で必要事項を記入し、自治体に提出されると、前の勤務先の特別徴収額が引き継がれます。
ただ、中小零細企業の場合、現実的には③の手続きはほとんどしておらず、②のケースもそのまま普通徴収で納税してもらって、翌年から特別徴収に切り替えるケースの方が多いような気がします。
次に “退社の場合” です。
こちらは、退社時期によって2つのパターンに分かれます。
① 6月から12月の間に退職した場合
原則は退職の翌月から普通徴収になります。
勤務先が「給与支払報告(特別徴収)に係る給与所得者の異動届出書」を作成し勤務先から退職者がお住いの各自治体に提出します。退職者が希望する場合には、残額一括控除も転職先への引き継ぎ処理も可能です。
② 1月から5月の間に退職した場合
退職する月の給与から残額すべてを控除します。
こちらは義務のため退職者の希望を聞く必要はありませんが、支給給与額が控除残額よりも少ない場合には、退職者と相談し、不足分を勤務先に支払ってもらうか通常通り1か月分を控除し、①の届出書に「残額控除不可能」と記載し、提出してください。転職先への引き継ぎ処理も可能です。
1月に提出した「給与支払報告書」が「退職予定」のため普通徴収希望となっていないと次の年の納付書が届くことになるので、届出書は必ず提出しましょう。
監修者紹介
税理士法人総合経営サービス 植松 伸
下町生まれの税理士の植松伸です。
税理士になる前は建設系の労働組合で働いていたので、建設業等の許認可や健康保険事務組合の知識もあり、それらの業務を弊社グループ内へつなぐことも大事にしています。
趣味は観賞魚飼育で、現在自宅に水槽が10個あります。
魚を眺めたり、水の音はとてもリラックスできるのですが、水槽の掃除等のメンテナンスに時間がかかるので、ちょっと増やしすぎたと反省する毎日です。
本記事が皆様のお役に立てれば幸いです。
今後もKING OF TIMEをご愛顧いただけますよう邁進してまいりますので、何卒よろしくお願いいたします。