今週のピックアップ
◆ 令和6年分の確定申告の変更点
◆ 定額減税
◆ 税務署の収受印の廃止
◆ 所得税の電子申告利用率約70%?
◆ 確定申告のポイントまとめ
◆ 最後に(電子申告のススメ)
令和6年分の確定申告の変更点
総合経営サービスの植松です。
そろそろ確定申告の時期となり、われわれ税理士にとっては大変な時期を迎えます。
あらためて所得税の確定申告についてご説明します。毎年1月1日から12月31日までの1年間に生じた所得の金額と、それに対する所得税等の額を計算して確定させる手続きです。
申告の期限は、原則として、その年の翌年2月16日から3月15日までです。今年は、申告期限が土日等にあたるため、3月17日までとなっています。
毎年、事前準備が大事だと思っていますが、12月には年末調整があり、直前の1月は末日までに法定調書、償却資産、給与支払報告書の申告が必要です。そのため、事前準備がなかなか思うようにはできません。
せめて法定調書、償却資産は決算時期に提出ができれば、だいぶ手間も省けると思ったりもするのですが、行政側のシステム変更などが必要であり、なかなか実現しそうにありませんね。
さて、令和6年分の確定申告のポイントですが、今年の申告から変更になることはそれほどありません。大きな変更点は2つかと思います。
ひとつは「定額減税」、もうひとつは「税務署の収受印の廃止」です。
その他の変更としては、子育て世代等への住宅ローン控除の拡充、ストックオプション税制の改正、マイナポータルでの連携強化などがあります。
定額減税
ひとつめの定額減税については、ご承知の方も多いと思いますが、給与等での控除、年末調整での控除、予定納税からの控除などを経て、定額減税額が確定申告で最終的に確定することになります。
給与や年金からの定額減税や予定納税からの定額減税で、二重に控除されていたとしても、この確定申告で最終調整されることになるので、あらためて定額減税の対象になるかどうかの確認をする必要があります。
確定申告時に気をつけることは、確定申告をすると文字通り申告額などが「確定」するということです。
以前もお話ししましたが、配偶者間で所得差が大きく、仮に夫の所得が1,805万円超で、妻の所得が1,805万円以下の場合には、夫の確定申告には16歳未満の扶養親族(障害者控除対象者を除く)を記載せず、妻の確定申告で記載するようにすれば、妻の所得税から定額減税ができるようになります。
こちらを考慮せずに申告した場合にも、法定申告期限の3月17日までであれば、「訂正申告」が可能です。しかし、3月18日になると「訂正」はできなくなります。
間違った申告をした際は、3月18日以降「更正の請求」という手続きがありますが、上記のケースではその対象にもなりません。なぜなら、扶養親族をどちらにつけて申告しても、税法上間違った申告ではないため、「更正」はできないことになります。ここは注意してください。
結論として、今年は法定申告期限の3月17日までであれば何回申告しても、最後の日付の申告が有効になります。ただ、何回も申告すると自分でもどれが最終のものかわからなくなることもありえます。後述しますが、特に今年からは税務署の収受印が無くなりますので、余計に分かりにくくなることが懸念されます。
自分が定額減税の対象者であるのか、配偶者や扶養親族に対象者がいるのかなどを十分に検討したうえで、一回で済むように申告することが望ましいですね。
税務署の収受印の廃止
令和7年から税務署に郵送で届いた書類や窓口に提出した書類については、税務署の収受印が押印されないことになりました。すでに、税務署の青いスタンプ(収受印)は無くなっています。
廃止について、国税庁の説明によれば、デジタル社会の実現に向けた重点計画等を踏まえて、納税者の利便性の向上等の観点から、「あらゆる税務手続きが税務署に行かずにできる社会」を目指すと発表されています。要するに「電子申告をしてください」ということですね。
提出日に関しては、税務署の収受印が無くなると、紙の場合は、いつ提出したものかわからなくなりますが、電子申告であればいつでもデータで提出日も内容も確認できるというわけです。ただ、そうはいっても全員がすぐに電子申告に切り替えることは難しいということで、当分の間は、希望者にはリーフレットを配布するそうです。
このリーフレットには、収受日と税務署名が記載されるということなので、所得税ではないのですが、法人税のある申請で試してみました。
まず、リーフレットのメモ欄に何の書類を提出したか記載し、返信用封筒を入れて郵送したところ、日付が記入されて返送がありました。税務署名を印刷したリーフレットを送ったため、税務署は日付のみ記載してくれました。
仮に、提出したかどうかでもめた場合には、この日付に加え提出したとする書類や税理士や納税者からの聞き取りによって判断していくそうです。税務の書類では、郵送日で有効なものと到着日で有効なものがありますが、今後この判断もやりにくくなりそうです。
それから、収受印のある確定申告書を保育園や銀行等へ提出している方もいると思いますが、今後はどうなるのでしょうか。
国税当局は、収受印がある申告書等の控えを求めないように周知したということですが、保育園や銀行等も、本当に提出したかどうかもわからない申告書の控えを提出してくれればよいとはならないのではないでしょうか。
その場合には、先述したリーフレット交付の他、納税証明の取得、申告書等情報取得サービスの利用、保有個人情報の開示請求の3つの手段が考えられます。
まず、リーフレット交付は証明力が弱いと思うので、リーフレットとコピーの提出でよしとする金融機関や行政機関は無いことも予想されます。
納税証明書は今までも求められることがあったと思いますので、それほど変わりませんが、確定申告書の控えで済んでいたものも、納税証明書を取得しなければならなくなる可能性があります。
申告書等情報取得サービスの利用と保有個人情報の開示請求は、紙での提出の場合にはその情報の反映までの期間がどのくらいかかるのかという問題と、前者は電子申請での発行のみですから、それができるくらいなら電子申告しているのではないか思います。
個人的には収受印廃止の納税者側のメリットが本当にあるのだろうかと考えてしまいます。つまり、電子申告できない方々はどんどん手間がかかるようになっていくような気もします。
【 参考 】
■ 書面で申告書等を提出する皆様へのお知らせ[PDF]|国税庁
■ 申告書等の控えへの収受日付印の押なつの見直しに関するQ&A[PDF]|国税庁
所得税の電子申告利用率約70%?
所得税の申告では現状70%近くが電子申告をしていると発表されているようです。
70%の内訳は下記のとおりです。
① 自宅等からおこなっている方の割合が約50%
② 無料相談会や税務署などでおこなっている方の割合が約20%
ただ、① には税理士による代理送信が含まれています。また、② では納税者本人がすべてパソコン等でおこなっていることは少なく、税務署の職員や無料相談会に参加している税理士が、かなりの部分を補助して電子申告をしているのが実態です。
そのため、自力でおこなえている方がどれほどいるかというと、割合としてもまだまだ少ないのではないかと思っています。
今後もスマホや自宅のPCから電子申告される方は、増えていくとは思いますが、自力でおこなえる方を増やすためにも、システムの使い勝手のみならず、所得税の税制がもっとシンプルになるのを願うばかりです。
確定申告のポイントまとめ
確定申告についての注意点をまとめると、定額減税については、配偶者間の扶養親族の付け替えで有利不利があるのであれば、忘れずに付け替えることです。
税務署の収受印が無くなることについては、税務署の窓口で申告する方や、郵送で申告する方は、トラブルを避けるためにも例年よりも早めに申告をした方がいいということです。
また、郵送に関しては、リーフレット交付はもちろんですが、郵送日の証明が可能な特定記録や書留を利用するとよいでしょう。特に申告期限ぎりぎりになってしまった場合には、普通郵便で送らない方がよいと思います。
なお、事業所得や不動産所得があり、青色申告をしている方は、青色申告特別控除額の65万円控除や55万円控除を適用する場合には、期限内申告が必須条件であり、期限後の申告になると青色申告特別控除額の上限が10万円となるため、自衛策を講じておきましょう。
最後に(電子申告のススメ)
最後に、可能であればこれを機会に電子申告へ切り替えるのもよいと思います。
まだまだ、とても便利とは言いがたいですが、マイナポータルで医療費、ふるさと納税、生命保険料、地震保険料、iDeCo等々連携できることが増えているのは事実です。
連携のための事前準備等が大変だと思いますが、一度連携すれば、翌年以降は自動的にマイナポータルへ情報が入ってきますので、マイナポータルの連携を使ってみようと思った方は、すべて今年中に連携を完了させなくてもいいという気持ちで取り組む方がいいと思います。
もちろん専門家にご依頼いただければ、個人の所得税は、ほとんど電子申告で対応していますが、税理士に依頼しなくても、もっと簡単に電子申告ができるようになってほしいと思っています。
監修者紹介
税理士法人総合経営サービス 植松 伸
下町生まれの税理士の植松伸です。
税理士になる前は建設系の労働組合で働いていたので、建設業等の許認可や健康保険事務組合の知識もあり、それらの業務を弊社グループ内へつなぐことも大事にしています。
趣味は観賞魚飼育で、現在自宅に水槽が10個あります。
魚を眺めたり、水の音はとてもリラックスできるのですが、水槽の掃除等のメンテナンスに時間がかかるので、ちょっと増やしすぎたと反省する毎日です。
本記事が皆様のお役に立てれば幸いです。
今後もKING OF TIMEをご愛顧いただけますよう邁進してまいりますので、何卒よろしくお願いいたします。