
今週のピックアップ
◆ 今年度の税制改正のポイント
◆ 103万円の壁
◆ 住民税と社会保険はどう変わるか
◆「特定親族特別控除」の新設
◆ 生命保険料控除も拡大?
◆ その他の税制改正
今年度の税制改正のポイント
総合経営サービスの植松です。
今回は今年度の税制改正について取り上げたいと思います。
なお、この原稿を執筆している時点で、まだ国会審議中の部分が多く、最終的に変更される可能性がある点をご了承ください。
まず、大きな注目を集めているのは「103万円の壁」の見直しです。
各種報道でも大きく取り上げられており、多くの方が関心を寄せていると思います。
このほか、個人所得税では、子育て支援を目的とした扶養控除の改正、生命保険料控除の見直し、住宅ローン控除の特例措置の拡充・延長、そして確定拠出年金の拠出額増加などが検討されています。
法人税については、防衛増税や中小企業者等の軽減税率の延長(多少の見直しを含む)などが議論の中心となっています。
また、消費税に関しては、外国人向け免税制度の見直しや国際課税制度の再検討、たばこ税の増税など、幅広い分野で議論が進んでいます。
103万円の壁
いわゆる「年収の壁」と呼ばれる、所得税がかからない上限ライン(現行では給与収入103万円)をどの程度まで引き上げるかが焦点です。報道によると、これを160万円に引き上げる方向で調整が進んでいるようですが、給与所得控除や基礎控除に適用要件が設けられる見通しです。
今回の改正案では、給与所得控除を最低65万円、基礎控除を最大95万円に引き上げることで、控除額の合計が160万円に達し、給与収入160万円までは所得税がかからない仕組みを検討していると報じられています。
ただし、この基礎控除95万円が適用されるのは、年収200万円以下など一定の所得要件を満たす場合に限られる見込みです。そのため、すべての人が一律に160万円まで非課税になるわけではない点に注意が必要です。さらに、所得の高い層には別途制限が設けられるとされており、制度設計は複雑化する可能性があります。
また、この改正による減税効果は年間2万円程度との試算もあり、大きな恩恵を感じにくい方もいるかもしれません。さらに、2年間の時限措置との報道もあるため、企業の年末調整やシステム対応がさらに煩雑化する懸念があります。
現在ご利用中の給与計算システム等で法改正に十分対応できない場合は、この機会にシステム導入やリプレースを検討されることをおすすめします。
住民税と社会保険はどう変わるか
■ 住民税について
もう一つ注意したいのは、今回の基礎控除の増額案が住民税には直接影響しないという点です。つまり、年収160万円の方が「基礎控除が160万円になったから税金はかからない」と思っていると、後になって驚くかもしれません。
実際、住民税の基礎控除は43万円で据え置かれる見込みです。そのため、仮に給与収入160万円で給与所得控除が65万円だとすると、「160万円 – 65万円 = 95万円」から住民税の基礎控除 43万円を引いた52万円が住民税の課税所得になります。税率10%をかけると、年額52,000円の住民税を納める必要があります。
また、住民税は翌年に課税・徴収される仕組みなので、そのタイミングにも留意しましょう。
■ 社会保険について
給与収入が年160万円になると、扶養範囲(社会保険の被扶養者)を超えるため、自分自身で社会保険に加入しなければならなくなるケースが考えられます。
たとえば、年160万円の給与に対しては、少なくとも年間22万円以上の社会保険料を本人が負担することになります(事業主も同額程度を負担)。この自己負担した社会保険料は住民税の控除対象になり、最終的な住民税額はおよそ3万円前後に下がると考えられます。
このように、たとえ給与が60万円程度増えても、社会保険料や住民税を含めた実際の手取り増加はおよそ35万円程度にとどまるかもしれません。一方で、社会保険に加入することで将来の年金額が増えるというメリットもあります。
こうしたプラス面・マイナス面をどう考えるかは、「今」の手取りを重視するか、「将来」の年金を重視するかなど、個人の状況や価値観によって異なるでしょう。現状では、このように年収アップによる影響は人それぞれというのが実情です。
「特定親族特別控除」の新設
子育て支援の一環として、19歳から23歳未満の子どもがアルバイトなどで一定額まで収入を得ても、扶養する親が特別な控除を受けられる「特定親族特別控除」が新設される見込みです。
これは、現行の「特定扶養親族控除(63万円)」を拡大したイメージで、配偶者特別控除に近い仕組みになると報じられています。
現在は、子の所得が48万円以下(給与収入103万円以下)の場合にしか親が控除を受けられませんが、改正後は年収上限を150万円に引き上げる案が検討されています。具体的には、123万円を超えると「特定親族特別控除」の段階に移行し、150万円を超えると段階的に控除額が減る仕組みが想定されています。
なお、これはあくまで親の控除の話であり、子本人の所得税は前述の「103万円の壁」などのルールに従って課税されます。
生命保険料控除も拡大?
前項に加え、23歳未満の扶養親族がいる場合は、生命保険料控除の金額も見直される可能性があります。現在は、「一般生命保険料」「個人年金保険料」「介護医療保険料」でそれぞれの上限が4万円ですが、新制度では6万円に引き上げられる見込みです。
ただし、3つの保険料控除を合計したときの12万円という上限自体は変わらないため、3種類すべてで上限を使っている方には実質的な恩恵はありません。
《 具体例 1 》2区分の保険に加入していて、それぞれ6万円支払った場合
● 従来:控除額は、それぞれ4万円で計8万円
● 改正後:控除額は、6万円 + 6万円 = 12万円(控除額の合計額も増える)
《 具体例 2 》3区分の保険に加入していて、それぞれ6万円支払った場合
● 従来:控除額は、それぞれ4万円で計12万円
● 改正後:控除額は、それぞれ6万円で計12万円(合計の上限が変わらないため、控除額の合計は変わらない)
このほか、子育て支援対策としては、住宅ローン控除や住宅リフォーム税制の延長なども検討されているようですが、詳細は割愛いたします。
その他の税制改正
■ 確定拠出年金掛金の上限引き上げ
所得税の改正では確定拠出年金掛金の上限が引き上げられる見込みです。具体的には、法人の401K、個人のiDeCoともに現行の月55,000円が62,000円(国民年金のみに加入の方は75,000円)に拡大されると報じられています。
また、iDeCoの掛け金拠出可能年齢も65歳未満から70歳未満へ延長する案が検討されており、老後資産形成の選択肢が広がりそうです。
■ 退職所得控除の計算方法見直し
一方で、退職金や確定拠出年金の受け取りに関する退職所得控除の計算方法が見直されます。
これまでは、退職金を複数回にわたって受け取る場合、過去4年以内に退職金を受け取っていないことが条件でしたが、これが過去9年以内となる見通しです。さらに、企業や中小企業退職金共済からの退職金を受け取ったあとにiDeCoの退職金を続けて受給するケースでは、もともと19年以内(改正後はさらに混同が生じやすい)という独自のルールがあります。受給タイミングを誤ると思わぬ損失につながるため、同時受け取りや年金形式での受給を検討するのが賢明でしょう。
■ 中小企業向け軽減税率は2年延長
法人税については、中小企業者等の軽減税率が延長となります。
現行制度では、所得800万円以下の金額について15%の軽減税率が適用され、令和7年4月1日以降は19%の本則税率になる予定でしたが、2年延長し、令和9年3月31日の事業年度法人まで軽減税率となります。
■ 防衛特別法人税の新設
新設される法人税としては、防衛特別法人税(仮称)があります。こちらは500万円以上法人税を納税する企業のみが対象となります。その他にも中小企業が行う投資について、延長や見直しが行われていますが、大きな影響はないと思われます。
いずれも、今後の審議状況や最新情報を随時ご確認ください。
監修者紹介
税理士法人総合経営サービス 植松 伸
下町生まれの税理士の植松伸です。
税理士になる前は建設系の労働組合で働いていたので、建設業等の許認可や健康保険事務組合の知識もあり、それらの業務を弊社グループ内へつなぐことも大事にしています。
趣味は観賞魚飼育で、現在自宅に水槽が10個あります。
魚を眺めたり、水の音はとてもリラックスできるのですが、水槽の掃除等のメンテナンスに時間がかかるので、ちょっと増やしすぎたと反省する毎日です。
本記事が皆様のお役に立てれば幸いです。
今後もKING OF TIMEをご愛顧いただけますよう邁進してまいりますので、何卒よろしくお願いいたします。